これまで、インスリンを自動投与するClosed-loopシステム(以下、人工膵臓)の2型糖尿病に対する有用性は、入院患者や透析患者でしか検討されていない。英・Addenbrooke's HospitalのAideen B. Daly氏らは、こうした生活制限がない状況下にある成人2型糖尿病に対する人工膵臓の有用性を非盲検クロスオーバーランダム化比較試験で検討。人工膵臓は標準的なインスリン注射法と比べて血糖コントロールを改善し、低血糖を増やさなかったことをNat Med2023; 29: 203-208)に報告した。

成人26例で8週ずつ検討

 対象は2020年12月~21年11月に登録し適格基準を満たした成人2型糖尿病患者28例。人工膵臓(AndroidアプリCamAPS HX+持続グルコースモニター+インスリンポンプ、写真)を使用する14例と標準治療(1日複数回のインスリン注射、測定値を隠した血糖モニターを装着)を実施する14例に1:1でランダムに割り付け、8週間継続した。その後、2~4週のウオッシュアウト期間(試験前に行われていたインスリン投与法を実施)を経て、クロスオーバーした。

写真. CamAPS HXを用いた人工膵臓システム

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(University of Cambridgeプレスリリース)

 主要評価項目は、血糖値が目標範囲内(70~180mg/dL)にあった時間の割合、重要副次評価項目は血糖値が180mg/dL超の時間の割合、平均血糖値、平均HbA1c値、低血糖(70mg/dL未満)の時間の割合で、intention-to-treat解析を行った。

 解析対象は26例(人工膵臓先行群14例、標準治療先行群12例、女性27%)で、年齢〔平均値±標準偏差(SD)、以下同〕は59±11歳、開始前のHbA1c値は9.0±1.4%だった。

血糖値が目標範囲だった時間は対照群の約2倍

 血糖値が目標範囲内にあった時間の割合は、標準治療を行った対照群の32.3%±24.7%に対して人工膵臓群では66.3%±14.9%と有意に長く、平均群間差35.3%ポイント(95%CI 28.0~42.6%ポイント)だった(P<0.001)。

 血糖値180mg/dL超の時間の割合は対照群の67.0±25.2%に対し、人工膵臓群では33.2±14.8%と人工膵臓群で有意に短かった(平均群間差−35.2%ポイント、95% CI −42.8~−27.5%ポイント、P<0.001)。血糖値についてもそれぞれ227±54mg/dL、166±22mg/dLと、人工膵臓群で有意に低かった(同−65mg/dL、−83~−45mg/dL、P<0.001)。同様に、HbA1c値は8.7±1.2%、7.3±0.8%と人工膵臓群で有意に低かった(同−1.4%、−1.8~−1.0%、P<0.001)。

低血糖の発生時間は同等

 低血糖の時間の割合は同等で、中央値は対照群の0.08%(四分位範囲0.00~1.05%)、人工膵臓群が0.44%(同0.19~0.81%)だった(P=0.43)。

 両群とも重度の低血糖は認められず、治療に関連する重篤な有害事象は人工膵臓使用時の1件(カニュラ挿入部の膿瘍)のみだった。

 以上の結果から、Daly氏らは「8週間の人工膵臓使用は、低血糖を増やすことなく血糖コントロールの改善を示した」と結論。「より広範な対象に適応可能か、持続的な費用効果が得られるかなどを検証するランダム化比較試験の実施が求められる」と付言している。

(小路浩史)