アスリートの腸内細菌叢は多様性に富むことが報告されているが、個別の細菌が運動パフォーマンスに及ぼす影響やメカニズムについては明らかでない。慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授の福田真嗣氏らは、グラム陰性桿菌のBacteroides uniformisがアスリートに多く存在し、持久運動パフォーマンスと関連すること、養分となる環状オリゴ糖α-シクロデキストリン(αCD)の投与により持久運動パフォーマンスが向上することをSci Adv(2023; 9: eadd2120)に報告した。
B. uniformisと3,000m走のタイムに正の相関
福田氏らは持久運動に関連する腸内細菌を特定するため、青山学院大学陸上競技部に所属する48人〔アスリート群、平均年齢±標準偏差(SD)20.3±1.0歳、平均体重±SD 54.8±3.5kg、平均BMI±SD 19.0±0.9〕と対照の10人(一般男性群、同22.6±0.7歳、59.5±8.0kg、20.6±2.2)の腸内細菌叢を検討。一般男性群と比べてアスリート群では腸内細菌叢の多様性に富み、B. uniformisが多いことが示された(図1)。また、アスリート群のうち3,000mの走行タイムが得られた25人でB.uniformisの菌数と走行タイムとの関連を検討した結果、両者に正の相関が認められた(図2)。
図1. アスリート群と一般男性群のB.uniformis菌数
図2 アスリート群のB. uniformis菌数と3,000m走行タイムの相関
(図1、2とも慶應義塾大学プレスリリース)
次に、B. uniformisの変化と持久運動パフォーマンスに及ぼす影響を調べるため、B. uniformisの増殖を促進するとされる亜麻仁リグナンおよびαCD投与による変化をプラセボと比較検証した。20〜49歳の日本人男性36人をプラセボ群(12人)、亜麻仁リグナン群(12人)、αCD群(12人)にランダムに割り付けて8週間検討した結果、αCD群ではベースライン時と比べてB. uniformisが有意に多く(P=0.036)、エクササイズバイクの走行タイムが有意に短く(P=0.014)、50分間運動後の疲労感が有意に少なかった(P=0.014)。また、はプラセボ群と比べて走行タイムが有意に低く(P=0.010)、疲労感が有意に少なかった(P=0.024)。
さらに、同氏らはマウスに対する亜麻仁リグナンおよびαCDの投与によりB. uniformisが有意に増加して持久運動パフォーマンスが向上すること、マウスに対するB. uniformisの経口投与により持久運動パフォーマンスが向上することなどを明らかにしており、B. uniformisによる持久運動パフォーマンス向上のメカニズムとして、B. uniformisが腸内で産生する酢酸とプロピオン酸が運動中の肝臓におけるグリコーゲン分解および糖新生を促進し、運動に必要なグルコースを全身に供給している可能性が示唆された。
以上を踏まえ、同氏は「B. uniformisを標的としたプレバイオティクスやプロバイオティクス、オールバイオティクス介入により、ヒトの運動パフォーマンスを向上できる可能性が示された。スポーツ分野や飲食料品への応用が期待される」と結論している。
(編集部)