アイスランド・University of Iceland/Landspitali University HospitalのArnar B. Ingason氏らは、同国で心房細動(AF)、静脈血栓塞栓症(VTE)、虚血性脳血管障害に対して直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)またはワルファリンを処方された患者3,847例を対象に、国際標準比(INR)に基づくワルファリンの用量調節を加味した服薬不遵守率について比較検討を行った。その結果、アピキサバン、リバーロキサバン、ワルファリンの服薬不遵守率に差はなかったが、これらに比べダビガトランは有意に高かったとBMJ Open2023; 13: e065700)に発表した。

ワルファリンの用量調節を加味して検討

 ワルファリンと各種DOACのアドヒアランスを比較した研究の結果は一貫していない。その一因として、Ingason氏らは「これまでの研究はワルファリンの用量調節を考慮していなかった。通常、ワルファリンは標準用量で投与を開始するが、最終的な維持用量は患者間で40倍もの差が生じることがあり、これが誤った服薬不遵守率の推定につながる可能性がある」と指摘している。

 そこで同氏らは今回、ワルファリンの用量調節を加味した服薬不遵守率を検討。追跡期間において必要とされる処方量に対する実際の処方量の割合を表すproportion of days covered(PDC)が80%未満の場合に服薬不遵守と定義した。

 解析対象は、アイスランドで2014~19年にDOACまたはワルファリンの服用を開始したAF、VTE、虚血性脳血管障害の患者3,847例(アピキサバン群1,266例、ダビガトラン群247例、リバーロキサバン群1,566例、ワルファリン群768例)。

ダビガトラン群の服薬不遵守率は15.5%

 解析の結果、PDCの中央値はアピキサバン群で100%(四分位範囲94.3~100%)、ダビガトラン群で99.7%(同90.8~100%)、リバーロキサバン群で100%(同95.2~100%)、ワルファリン群で97.0%(同85.4~100%)とおおむねアドヒアランスは良好だった。

 傾向スコアによる重み付け前の服薬不遵守率が最も高かったのはワルファリン群(16.7%、95%CI 14.0~19.3%)、次いでダビガトラン群(16.2%、同11.6~20.8%)、リバーロキサバン群(12.4%、同10.8~14.0%)、アピキサバン群(10.5%、同8.8~12.2%)の順だった。

 傾向スコアによる重み付けを行い追跡期間を調整後の解析では、ダビガトラン群の服薬不遵守率(15.5%)はアピキサバン群〔vs. 11.9%、オッズ比(OR)1.57、95%CI 1.21~2.04、P<0.001〕、リバーロキサバン群(vs. 11.3%、同1.45、1.12~1.89、P=0.005)、ワルファリン群(vs. 11.1%、同1.63、1.23~2.15、P<0.001)に比べて有意に高かった。ダビガトラン群以外の服薬不遵守のオッズは同等だった。

服用頻度と消化器症状が複合的に関与の可能性

 ダビガトランの服薬遵守率が低かった要因として、Ingason氏らは1日2回という服用頻度と消化器症状の副作用を挙げている。

 服用頻度は、ワルファリンとリバーロキサバンが1日1回であるのに対し、ダビガトランは1日2回。慢性心疾患の治療薬に関する研究で、1日2回服用に比べて1日1回服用の薬剤は服薬遵守率が高いことが示されている(Curr Med Res Opin 2012; 28: 669-680)。

 ただし、アピキサバンはダビガトランと同様に1日2回の服用が必要になる。そこで、別の要因として挙げているのが、ダビガトランの副作用である消化器症状だ。AF患者におけるダビガトランの有効性と安全性をワルファリンと比較したRE-LY試験において、ダビガトラン服用者の12%で消化不良が見られ、胃部不快感による服用中止率がワルファリンの3倍に上った(N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151)。一方、アピキサバンは消化器症状の副作用が少ないとされている。

 同氏らは「これらの複合的な原因により、ダビガトランの服薬遵守率が低下している可能性がある」との見解を示している。

 さらに、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて服薬不遵守に関連する患者因子を解析した。その結果、ダビガトラン服用(OR 1.44、95%CI 1.00~2.04、P=0.046)と男性(同1.34、1.05~1.72、P=0.02)は服薬不遵守のリスク上昇と、脳血管障害の既往歴(同0.56、0.33~0.90、P=0.02)、高血圧(同0.76、0.60~0.97、P=0.03)、スタチン併用(同0.77、0.62~0.95、P=0.02)は服薬不遵守のリスク低下と有意な関連が認められた。

(太田敦子)