肺がん発症と前糖尿病糖尿病との関連は不明であり、血糖レベルによる発症リスクの差について検討した研究もほとんどない。中国・Sun Yat-sen UniversityのJunjie Hua氏らは前糖尿病糖尿病肺がん発症との関係を探るための大規模前向きコホート研究を実施。前糖尿病糖尿病肺がん発症リスクの上昇と関連していたとする結果をLancet査読前公開サイト(2023年1月10日)に投稿した。

糖尿病で37%上昇、糖尿病では20%上昇だが治療薬使用例では上昇せず

 解析対象は2006~10年に英国バイオバンクに登録されたがん未発症の28万3,257例(男性48.06%、平均年齢55.85歳)。多変量Cox比例ハザードモデルと制限付き三次スプライン解析によりHbA1c、前糖尿病糖尿病肺がん発症との関連についてハザード比(HR)および95%CIを算出した。国際専門家委員会の基準に基づき、HbA1c 6.0%未満を正常血糖、6.0%以上6.6%未満を前糖尿病、6.6%以上を糖尿病と分類した。

 中央値11.02年の追跡期間中に2,355人(0.83%)が肺がんを発症した。可能性のある全ての交絡因子を調整した後の肺がん発症リスクは、正常血糖例に比べ糖尿病患者で20%高く(HR 1.20、95%CI 1.05~1.38)、前糖尿病患者では37%高かった(同1.37、1.18~1.60)。

 糖尿病患者について糖尿病治療薬(インスリン、メトホルミン、スルホニル尿素薬、チアゾリジン系薬など)使用の有無別に検討したところ、使用例では肺がん発症リスクの有意な上昇は認められなかったのに対し(HR 1.11、95%CI 0.93~1.33)、非使用例では33%リスクが上昇した(同1.33、1.10~1.61)。

HbA1c正常範囲内でのリスク上昇が顕著

 さらにHbA1cと肺がん発症の関連を三次スプライン解析で検討すると、両者は非線形の関連性を示した。すなわち、肺がん発症のHRはHbA1c 5.1%付近まで低下した後、6.0%付近まで急激に上昇し、以降は緩徐な上昇を見せた。顕著な変動が認められたHbA1c 5.1〜6.0%における肺がん発症リスクの上昇は66%(HR 1.66、95%CI 1.46〜1.90)に上った。

 以上から、Hua氏らは「前糖尿病糖尿病肺がん発症リスクの上昇と関連していた。また、糖尿病治療薬の使用は糖尿病患者の肺がん発症リスクを低下させることが分かった。これは糖尿病の治療、予防が糖尿病のみならず肺がんの疾病負荷を軽減することを示唆する知見である」と結論した。また、現在正常とされているHbA1c 5.1〜6.0%の範囲で肺がん発症リスクの顕著な上昇が見られた点について「肺がん発症リスク抑制の観点からは基準が適当でない可能性がある」との考察を加えた。

(編集部)