脳卒中に対しては発症早期の治療が非常に重要だが、医療へのアクセスが容易ではない地域もある。英・University of East AngliaのOyewumi Afolabi氏らは、時間外の脳卒中の遠隔医療サービスが導入されたイングランド東部における同サービスの費用効果について解析した。その結果、通常の医療サービスと比べ、遠隔医療を導入した場合は時間外に発生した急性期の脳梗塞に対する血栓溶解療法実施率が高くなり、医療費の削減や質調整生存年(QALY)の延長にも関連していたとJ Stroke Cerebrovasc Dis(2023; 32: 106939)に報告した。
24時間脳卒中専門医と治療室をつなぐシステムを導入
脳卒中は英国における死亡原因の第4位であり、年間10万人以上が診断されている。脳梗塞では発症から4.5時間以内に行う血栓溶解療法が生存と回復に不可欠であるが、急性期医療へのアクセスには地域ごとのばらつきがある。
イングランド東部は医療アクセスが充実しておらず、脳卒中専門医も不足している。2008年に行われた調査では脳梗塞の発症率が上昇していた。そこで、時間外脳卒中遠隔医療サービスが2010年に開始され、夜間や休日でも脳卒中専門医と超急性期脳卒中治療室(HASU)をつなぐことで迅速な治療を提供できるようになった。現在は7病院12人の脳卒中専門医が参加している。
Afolabi氏らは今回、脳卒中診療の全国監査プログラムSentinel Stroke National Audit Programme(SSNAP)のデータを用いて、イングランド東部における時間外脳卒中遠隔医療サービスの費用効果を、通常の時間外医療サービスと比較検討した
2014年4月〜19年3月に時間外の脳卒中遠隔医療サービスを利用した患者データから、脳卒中患者総数、時間外に到着した患者数、時間外に血栓溶解療法を行った患者数、脳梗塞の割合などを収集。対象病院(計14病院)が脳卒中遠隔医療サービスを導入した場合の1年後と5年後の英国保健サービス(National Health Service:NHS)およびソーシャルケアのコスト削減、QALYを推定し、費用効果を検証した。遠隔医療サービスを導入しない通常の医療コストについては、既に公表されている情報とSSNAPを用いて算出した。
経済評価を行うため、①遠隔医療を導入した病院の1人当たりの平均コスト削減額とSSNAPデータに基づく全国の平均コスト削減額の比較、②遠隔医療を導入した病院の1人当たりの平均コスト削減額と通常医療の平均コスト削減額の比較(遠隔医療を導入していないと仮定)、③遠隔医療を導入した病院のコスト削減総額と通常医療のコスト削減総額の比較(遠隔医療を導入していないと仮定)−の3つのシナリオを用いた。
血栓溶解率は6%高く、医療費は1年で7,600万円削減
解析の結果、2014年〜19年に対象病院において年間平均1,861例の脳卒中患者が時間外入院していた。全時間外脳卒中患者に対する遠隔医療を利用した血栓溶解療法の平均実施率は9.7%で、既報の時間外の通常医療における3.74%よりも高かった。
遠隔医療を導入した場合のNHS総額は1年後で3,797万ポンド(約60億円)、5年後で4,935万ポンド(約78億円)と推定された。通常医療と比べ、遠隔医療を導入した場合のNHS削減総額は1年後で48万2,000ポンド(約7,600万円)、5年後で47万1,000ポンド(7,470万円)であった。
遠隔医療を導入した場合のソーシャルケア総額は、1年後で1,945万ポンド(約31億円)、5年後で6,832万ポンド(約108億円)と推定された。通常医療と比較べ、遠隔医療を導入した場合のソーシャルケア削減総額は1年後で170万ポンド(約2億7,000万円)、5年後で53万7,000ポンド(約8,500万円)であった。
血栓溶解療法実施率の上昇に伴い、QALYも延長すると推計された費用効果の閾値を2万ポンド/QALYとし、QALY獲得当たりのNHSコストを比較すると、先述の3つのシナリオのいずれにおいても1年後の増分費用効果比(ICER)は優位であり、遠隔医療は通常医療と比べてより安価かつ効果的であることが示された。
以上の結果から、Afolabi氏は「遠隔医療は脳卒中専門医へのアクセスが限られた地域で脳卒中治療を提供するための費用効果の高いアプローチである」と述べている。
(今手麻衣)