新型コロナウイルス対策のマスク着用緩和を巡り、専門家の間では政府方針を容認する声が上がる一方、感染リスク拡大への懸念も根強い。8日には厚生労働省の会合で着用の重要性を示す資料を提示するなど、政治主導で「脱マスク」が進む現状に苦悩もにじませる。
厚労省の助言組織「アドバイザリーボード」の専門家らは1月、今後の感染対策について「個人や集団が主体的に選択し、実施することになる」との見解を発表。今月8日の会合では、マスク無しでの卒業式や入学式を容認する姿勢を示し、緩和を進める政府と歩調を合わせてみせた。
ただ、同日の会合では、マスクを着用した人の感染リスクが未着用の人より低かったとする研究結果や、着用義務を解除した米国の小中学校で感染者が増えたとの報告も示された。一部のメンバーから、3密回避や換気などの感染対策は引き続き必要との意見も出たため、座長の脇田隆字・国立感染症研究所長は会合後の記者会見で「不特定多数の人が集まる場面では着用を推奨したい」と話した。
これまでも東京五輪・パラリンピックの開催など、感染リスクを巡り政府と専門家との間で溝が深まったことはあった。政府分科会の尾身茂会長らが間に入って官邸サイドとのバランスを取ってきたが、今年に入ってから「5類」への引き下げなど岸田政権の政治主導を印象付ける機会が増えた。
9日に開かれた厚労省感染症部会で、委員の一人はこう強調した。「科学と政治の分離をはっきりさせないといけない。(そうしなければ)科学者が政治を行うか、政治が政策判断の責任を科学者に押し付けるといった事態が生じる」。 (C)時事通信社
マスク緩和、にじむ苦悩=感染リスク増、懸念の声も―新型コロナ専門家
(2023/02/10 18:44)