新型コロナウイルス感染拡大を機に、東日本大震災の被災地では、ゴーグルを使って現地にいるような体験ができる「仮想現実(VR)映像」を活用した取り組みが進んでいる。被災体験の伝承や記録保存にも活用が期待されるが、専門家は「解説できる人材も不可欠だ」と指摘する。
企業や大学などに震災関連の研修を行う南三陸研修センター(宮城県南三陸町)。コロナ禍前は年間約3000人が研修に参加したが、感染拡大で2020年3月にはゼロまで落ち込んだ。打開策として始めたのが、スマートフォンを使用したVR映像による研修だ。紙などでできた簡易ゴーグルにスマホをはめて映像を視聴した後、語り部にオンラインで質問する形で現地の伝承ツアーを再現した。
センターで企画広報などを担当する浅野拓也さん(35)は「車椅子利用者など移動が難しい人にもオンラインで現地の状況を伝えることができる。語り部として活動する人が高齢化する中、映像記録として残しておくことにもつながる」と意義を強調する。
福島県大熊町で語り部活動をする木村紀夫さん(57)も今年1月、帰宅困難区域でVR映像の撮影を始めた。木村さんは震災当時、福島第1原発近くの沿岸部に住んでいたが、津波で次女と妻、父の3人を亡くした。現在も放射線の影響で立ち入り制限が続く当時の自宅の周辺で、原発事故の悲惨さや防災の重要性などを語り継いでいる。撮影したVR映像は、自分以外の語り部にも活用してもらうことを考えている。
木村さんは「放射線で15歳未満はそもそも区域内に入れない。病気などで自分が語れない時にも映像を活用できる」と語った。
ただ、専門家からは新技術を導入するだけでなく、語り部など「人」を充実させる必要性を指摘する声も上がる。東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(災害伝承学)は「VR映像などのツールと、その解説を加える『翻訳者』がセットでないといけない。映像だけではなく、内容が分かるようポイントを押さえ、総括する人材が必要だ」と話した。 (C)時事通信社
伝承と記録、VRに期待=宮城・福島、コロナ禍受け活用進む―「人材もセットで」と専門家・東日本大震災12年

(2023/02/25 14:18)