東日本大震災から間もなく12年。福島県内では、東京電力福島第1原発事故の影響で自宅に戻れない人々も多く、避難者はいまだ約2万7800人に上る。県内には約6400人が避難し、多くが復興公営住宅に入居。その半数以上は高齢者世帯だ。住み慣れた故郷を思い心を閉ざす高齢者が、孤立せず安心・安全に暮らせるよう支援が急務となっている。
 避難生活を支援する福島県社会福祉協議会(社協)は2022年度、県内復興住宅の全住民を対象とした初の実態調査に乗り出した。初年度は復興住宅が多く立地する郡山市内で相談員が訪問するなどして情報を収集。その結果、入居者がいる460戸中、272戸が単身世帯で、うち6割超が60代以上だった。さらに「医療福祉サービスを利用せずに日常生活を送れない」とされる世帯が全体の約4割を占め、支援がなければ孤立化の恐れがある高齢者が多い実情が明らかになった。
 県社協避難者生活支援・相談センター長の佐藤正紀さんは「若い人は家賃が上がるタイミングで転居や自宅の再建を選ぶ場合もある。結果として、単身高齢世帯の割合が増える」と分析。救急搬送が必要なケースもあり、異変を察知してもらえるよう地域とのつながりが重要になる。
 各市町村社協は連携して避難者の孤立を防ぐ仕組みづくりに取り組む。「同行訪問」はその一つ。住民票のある避難元地域の相談員と避難先の相談員が一緒に復興住宅などを訪ねる。
 佐藤さんは「入居者には双方から支援が必要だが、個人情報は避難元が持っている場合がほとんどだ」と説明。信頼関係のある避難元相談員が同行訪問することで、住民の警戒心が解かれ、相談員同士の情報共有が進んだり、避難先で「地域支援コーディネーター」による本格的な支援につなげたりすることができるという。
 相談員が直接訪問できない場合でも、電話による見守りや、サロンなどの「居場所づくり」を通じ、徐々に関係性を築けるケースもある。
 一方で、原発事故を背景に、住民間の交流には特有の難しさもみられる。郡山市の社協相談員は「入居者の出身市町村はさまざまで、避難者同士で『賠償金をいくらもらっているか』といった話にもなる。それが嫌で、避難者だと知られたくない人も多い」と指摘する。住民間の交流が希薄で、自治会すらない団地もあるという。
 さらに、いまだ避難者が多い大熊町の社協相談員は「高齢者は故郷への思いも強い。『あくまでも自分は避難者だ』との意識から、地域住民との交流に積極的になれないのだろう」と複雑な心情を代弁する。
 県社協は23年度中に実態調査を終える予定で、今後の支援に反映させたい考えだ。佐藤さんは「いつまでも『避難者の団地』では地域から孤立する。避難者が今住んでいる場所で安心・安全に暮らせるよう支えていきたい」と語る。 (C)時事通信社