【北京時事】新型コロナウイルスの感染爆発が世界で初めて中国湖北省武漢市で発生してから、3年以上が経過した。5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告で、習近平政権はウイルス対策に関し「決定的大勝利を収めた」と宣言。コロナ禍を乗り越え「英雄都市」とたたえられる武漢では、感染拡大当初の記憶を隠蔽(いんぺい)しようとする動きが進んでいる。
 ◇口閉ざす市民
 「治安当局を訴える」「取材してほしい」。2020年1月、武漢で最初の感染爆発が起きた後、コロナで家族を失った人々や関係者から、悲痛な思いを記した文書が時事通信に届いた。
 当時、武漢の医療体制は早い段階で崩壊し、多くの人々が亡くなった。初動が遅れた習指導部は2カ月半ものロックダウン(都市封鎖)を実施し、普段にも増して情報統制を強化。一般市民にとって外国メディアとの接触は危険と隣り合わせだが、当局に対する激しい怒りは恐怖を上回り、取材に積極的に応じる人は少なくなかった。
 しかし、状況は3年で一変。今年2月下旬、武漢で市民に取材を試みたが、誰もがコロナについて口を閉ざすようになっていた。
 「何も話せない」。おびえた様子で、監視されていることをほのめかす人もおり、統制の徹底ぶりがうかがえた。
 ◇風化進む施設
 最初に集団感染が確認された市中心部の華南海鮮市場。今は1階部分が閉鎖され、高い仕切りが張り巡らされている。2階には眼鏡店が入居するが、店員に3年前のことを聞いても「今は良くなった」と繰り返すだけだ。
 20年2月に建てられ2000人以上が治療を受けたとされる郊外の「武漢雷神山医院」に、人影はなかった。仮設病棟の鉄骨は赤いさびが目立つ。一帯は封鎖され、高圧電流が流れるフェンスと監視カメラが設置されている。
 ◇記者に付きまとう車
 人為的な要因でウイルスが流出し拡散したという疑いが払拭(ふっしょく)されない背景には、習政権の隠蔽(いんぺい)体質がある。21年に世界保健機関(WHO)が調査に入った中国科学院武漢ウイルス研究所は、中国の地図アプリで検索しても表示されない。以前は建物入り口にあった施設名を示す文字も取り払われていた。周囲の鉄柵には「人民の幸福実現」などと書かれた巨大な看板が掲げられ、視界を遮っていた。
 関連施設を巡ったこの日、当局者が乗っているとみられる白い車が終日、後を追い掛けてきた。中国では昨年末から今年初めにかけて再び感染が爆発的に広がったが、政府発表の感染・死者数は実態と懸け離れたものだった。不都合な情報を隠匿する習政権の姿勢は、3年前から変わっていない。 (C)時事通信社