政府が31日に発表した少子化対策の「たたき台」は、与党側が示したメニューをほぼそのまま並べたものだ。目前に迫る4月の統一地方選や衆参5補欠選挙へのアピールを優先したためで、予算規模や財源などは先送りした。政権内からは「期待値だけ上げて、本当に大丈夫なのか」(政権幹部)との声が漏れる。
 「たたき台を踏まえ、必要な政策の内容、予算、財源について与党と連携しながら議論を深めたい」。岸田文雄首相は31日、首相官邸で記者団に対し、今後の議論の方向性を説明した。
 たたき台は、首相が通常国会召集前の1月6日、小倉将信こども政策担当相に3月末までの策定を指示。これを受け、与党からは気前のいい発信が相次いだ。
 自民党の茂木敏充幹事長は1月の衆院本会議で、同党がかつて批判していた児童手当の所得制限撤廃を表明。その後も給食費無償化などに言及した。萩生田光一政調会長は新婚家庭への住宅支援を提唱。菅義偉前首相は出産費用を公的医療保険の対象にするよう求めた。公明党も統一選の公約に児童手当の所得制限撤廃や18歳までの対象年齢拡大などを盛り込んだ。
 与党側の提案を網羅したたたき台は、従来制度の拡充など子育て世帯への支援強化が中心。少子化の主な要因である非婚・晩婚化の背景には、将来への経済的不安があるとされるが、小倉担当相は31日の記者会見で「若い世代の所得をしっかり上げる取り組みが重要だ」と述べるにとどめ、具体策には言及しなかった。
 今後本格化する財源探しも難航が予想される。政府関係者によると、児童手当の所得制限撤廃に約1500億円、給食費無償化には少なくとも4000億~5000億円の財源が必要になるという。たたき台に盛り込んだ施策を全て実施した場合、数兆円単位の予算が必要との指摘もある。
 少子化対策の財源を増税に求めることに、自民党内には反対論が強い。昨年末の税制改正論議では、増額する防衛費の財源の一部を増税で賄うとした首相方針に、安倍晋三元首相に近い議員が激しく抵抗した。首相周辺は「少子化の財源は防衛費よりも相当複雑なものになる」と表情を曇らせる。
 財源論は早期の衆院解散も取り沙汰される政局とも密接に絡む。政府関係者は「解散までに予算規模や財源をどこまで見せるのか、見せない方がいいのか。(首相は)しっかり見定めてやるはずだ」と語る。 (C)時事通信社