岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」のたたき台がまとまり、財源確保に向けた議論が本格化する。有力案の一つが、既存の公的医療や介護、年金の各社会保険を通じて拠出する仕組みだ。この案を「子育て支援連帯基金」として提唱した権丈善一慶大教授は1日までに時事通信のインタビューに応じ、「子育てを社会全体で支える仕組みは、社会保険の持続可能性も高める。全ての国民にメリットがある」と説明した。主なやりとりは次の通り。
 ―少子化の要因は。
 今の日本では医療、介護、年金保険によって高齢期の生活費を社会で支えているため、子どもを持つ利点が小さくなり、少子化が進む。加えて働く女性にとって、結婚や子育てで家事育児の負担が増すことや、キャリアが中断されることで、経済的な損失が大きくなっている。
 ―打開策は。
 高齢期の生活費と同様に、子育て費用を社会で支える社会へ変える。その財源として、年金受給者や企業を含む国民全体が、社会保険制度を通じて公平にお金を出し合う仕組みを子育て支援連帯基金として提案した。
 例えば生涯所得2億円の女性の場合、現状では「結婚して子どもができたら、仕事を続けられたとしても私ばかり育休を取って、会社で不利になる。それだけの価値がこの男性にあるのだろうか」と悩み、結婚や子育てを諦めるかもしれない。子育てを社会化すれば、女性のこうした悩みは不要になる。男性の魅力かさ上げと同じ効果を持つということだ。
 ―税を財源とする案もある。
 例えば消費税は、払う人の年齢で見ると初めから公平な負担となる仕組みだ。それを財源にできるならもちろん望ましい。連帯基金に加え、税との組み合わせも考えたい。
 ―支援を受ける際、所得制限は必要か。
 若い世代が安心して子どもを持てる社会と思えるようになるには、所得制限を設けず、必要な人が誰でも子育て支援を受けられるようにする。その分追加財源は増えるが、国が本気で取り組む覚悟を、若い世代に信じてもらうための必要額と捉えてはどうか。
 ―なぜ「全ての国民にメリットがある」のか
 公的医療、介護、年金保険の給付は、特に現役世代が納める保険料や税金に依存している。基金によって少子化が収まれば、これら社会保険の給付水準が高まり、国民全体にメリットが及ぶという論理だ。

 
 ◇権丈善一氏略歴
 権丈 善一氏(けんじょう・よしかず)慶大大学院商学研究科博士課程修了。02年より同大教授。61歳。福岡県出身。著書に「ちょっと気になる社会保障 V3」「再分配政策の政治経済学I~VII」など多数。 (C)時事通信社