【パリ時事】フランスのマクロン大統領は14日、強行採択後に法令審査で合憲と判断された年金改革法に署名、同法が15日公布された。年金支給開始年齢を現在の62歳から64歳に引き上げるのが柱で、9月から2030年にかけて段階的に実施される。ただ、世論調査では国民の約6割が反対しており、「大統領にとって政治的な代償の大きい改革」(ルモンド紙)となった。
 マクロン氏は、約3カ月にわたって抗議デモやストを繰り返してきた労組に対し、18日に対話に応じるよう呼び掛けている。労働者らは5月1日のメーデーに大規模デモを計画しているが、労組内部で強硬派と穏健派の路線対立も表面化。今後の情勢は不透明だ。
 年金改革法案はマクロン氏による経済・財政改革の要として1月に提出され、3月に上院が可決。しかし、下院では賛否の拮抗(きっこう)が予想されたため、ボルヌ首相が憲法の特例規定を行使し、採決なしで強行採択した。これに反発したデモ隊や過激派は路上での放火や、商店の窓ガラスをたたき割る暴力行為を展開。首都パリなど各地で治安が悪化した。
 国民感情を無視した施策は、昨春の大統領選でマクロン氏に敗れた極右野党・国民連合のルペン氏にとって追い風だ。最近の世論調査では、有権者の不満吸収にたけたルペン氏が支持を伸ばしてトップを走る。
 前下院議員の1人は取材に「フランスでは大統領の権限が強大だ。マクロン氏が残りの任期を全うする上で支障は何もない」としながらも、「このままいけば(27年の次回)大統領選に勝利するのはルペン氏だろう」と警鐘を鳴らした。 (C)時事通信社