新型コロナウイルスの流入を恐れ、北朝鮮は2020年1月に国境を封鎖した。北朝鮮と中国の貿易も一時急減したが、北朝鮮新義州市と鴨緑江を挟んで接する中国遼寧省丹東市を結ぶ貨物列車が昨年、運行を再開。中国でコロナが収束し、両国間の経済活動も徐々に拡大しているが、人の往来は止まったままだ。
 ◇「6年帰国できず」
 4月下旬、丹東市内で北朝鮮料理を振る舞う飲食店は大勢の中国人観光客でにぎわっていた。北朝鮮出身の若い女性店員がステージで中朝友好の歌を披露すると、盛大な拍手が起きた。
 女性らは北朝鮮が外貨を稼ぐために派遣している労働者だ。地元の関係者は「通常3年ほどで帰国するが、既に6年間、丹東に足止めされている女性もいる。故郷の家族や友人に会えず嘆く人も多い」と話した。
 国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議は、北朝鮮労働者の19年末までの本国送還を求めていた。中国は対外的には応じる姿勢を見せていたが、就労名目以外のビザで働き続けた人もいる。北朝鮮が入国を厳しく制限している現在、帰国は望んでもかなわない。
 ◇本格回復遠く
 中朝間の貿易額はコロナ前の水準に近づいているが、物流の本格回復には至っていない。鴨緑江に架かり、中朝貿易品の7割が通過するとされる「中朝友誼(ゆうぎ)橋」。鉄道は再開したものの、トラック輸送は止まっており、線路に隣接する車道は閑散としていた。
 丹東市内の商店には北朝鮮製をうたうビールや高麗ニンジン茶が並ぶが、数は少ない。ある店舗の従業員は「中国側に来る列車はほとんど空だ。一般の商品は入ってこない」と明かす。列車は中国側で肥料や建築資材を大量に積み込み、北朝鮮へ向かうという。市内ではシャッターを閉めた小規模な貿易商が目立った。
 ◇マスク外す市民も
 コロナ禍の間は人影もまばらだった北朝鮮側だが、4月下旬には建築現場や造船所周辺で働く人々の姿があり、経済活動の再開がうかがえた。マスク着用は強制ではないらしく、マスクを外して談笑する若者もいた。
 ただ、依然としてウイルス流入への警戒は強く、鴨緑江を巡る中国の遊覧船は以前ほど対岸に近づけない。北朝鮮側の要請だという。川では大量の干し草を積んだ北朝鮮船が稼働していたが、中国側からはかなり距離を取っていた。
 丹東市郊外の国境地帯から望む北朝鮮側では、農作業をする人々が多く見られた。「社会主義万歳!」と書かれた巨大な看板のそばで牛を使って2人一組で畑を耕す村人や、馬にくらを付ける国境警備兵の姿も確認できた。 (C)時事通信社