米・Icahn School of Medicine at Mount SinaiのManisha Balwani氏らは、赤芽球性プロトポルフィリン症とX連鎖性プロトポルフィリン症に対する初の経口薬dersimelagonのプラセボ対照第Ⅱ相ランダム化試験の結果をNew Engl J Med(2023; 388: 1376-1385)に報告。「dersimelagonは日光曝露に関連した症状発現までの時間を有意に延長させた」と述べている。
日光を浴びると激痛が生じる希少疾患
赤芽球性プロトポルフィリン症とX連鎖性プロトポルフィリン症はまれな遺伝性の光線皮膚症(photodermatosis)であり、白人における有病率は7万5,000~20万人に1人と推定されている。両疾患ともヘム生合成経路における酵素活性の障害であり、赤芽球性プロトポルフィリン症ではフェロケラターゼの欠乏、X連鎖性プロトポルフィリン症では赤血球特異的δアミノレブリン酸合成酵素2の活性亢進が見られる。その結果、光活性のある無金属プロトポルフィリンが骨髄で過剰産生され、赤血球や血漿、肝、血管内皮に蓄積する。
プロトポルフィリンは可視光に曝露されると活性化し、炎症や細胞傷害、激痛を引き起こす。典型的な患者は幼少期、光曝露の直後に顔や手背に耐え難い光毒性発作を経験する。激痛に先行する前駆症状には、ひりひり感、瘙痒感、灼熱感などがあり、これらは日光曝露を制限すべき警告徴候となる。日光曝露から前駆症状発現までの時間は10~30分以内と幅がある。
長時間の日光曝露に伴う激痛などの症状に対する効果的な治療法はなく、自然回復には2~7日を要する場合がある。現時点では日光を避けることが主な発症予防法だが、これは日常生活の制限やQOLの低下を意味する。
102例をプラセボ、実薬100mg、300mgの3群に割り付け
dersimelagonはメラニン細胞刺激ホルモンの一種であるメラノコルチン1の働きを増強する選択的メラノコルチン1受容体作動薬である。同じ機序の薬剤として米国、欧州連合、オーストラリアではafamelanotideが承認されているが、同薬は皮下埋め込み型製剤であり、経口薬としてはdersimelagonが初めてだ。
今回の第Ⅱ相試験では、2018年7月5日~19年4月22日に登録した18~75歳の患者102例(赤芽球性プロトポルフィリン症93例、X連鎖性プロトポルフィリン症9例)をプラセボ群(35例)、dersimelagon 100mg群(33例)、dersimelagon 300mg群(34例)にランダムに割り付け、16週間治療した。
日の出の1時間後から日没1時間前までの日光曝露状況や前駆症状の出現状況および重症度を電子日記に記録してもらい、日光曝露に関連した前駆症状が現れるまでの時間の平均値を求め、ベースラインからの変化を主要評価項目とした。
日光曝露に関連した前駆症状発現までの時間が有意に伸展
92例(90%)が16週間の治療を完遂した。日光曝露に関連した前駆症状発現までの平均時間のプラセボ群との最小二乗平均差は、dersimelagon 100mg群で53.8分(95%CI 14.5~93.1分、P=0.008)、同300mg群で62.5分(同22.5~102.5分、P=0.003)と両群とも無症状の時間が有意に延長していた。
また、副次評価項目の1つである光毒性に関連した疼痛イベントの発生率比(IRR)は、プラセボ群と比べ、dersimelagon 100mg群で0.4(95%CI 0.2~0.9)、同300mg群で0.5(0.2~0.9)といずれも有意に低下した。
さらに、患者の心象変化(Patient Global Impression of Change;PGI-C)スコアで評価した16週時点のQOLについても、プラセボ群と比べdersimelagon 100mg群、同300mg群でいずれも著明に改善した。
有害事象は悪心、雀卵斑、頭痛、皮膚の色素沈着が見られたが、大半は軽症で数日で改善した。血液学所見、生化学所見、尿検査所見などについても臨床的に重大な変化は観察されなかった。
希少疾患としてはサンプル数少なくないが盲検化が課題
以上の知見を踏まえ、Balwani氏らは「dersimelagonは100mg、300mgの両用量において、赤芽球性プロトポルフィリン症患者とX連鎖性プロトポルフィリン症患者の無症状日光曝露期間を有意に延長した」と結論。
症例数は多くなかったものの、102例という数はこれらの希少疾患の試験としては大規模であると指摘。ただし、試験終了時の参加者への質問で、dersimelagon 100mg群の97%、同300mg群の100%、プラセボ群の59%が、自分が実薬群かプラセボ群かを正しく推測できたことから(薬剤が誘発する色素沈着のためと考えられる)、「盲検化が不十分だった点は試験の限界である」と付言した。
(木本 治)