オーストラリア・National Centre for Healthy AgeingのChris Moran氏らは、米国の医療記録を用いて中高年2型糖尿病患者の認知症リスクが最も低くなる血糖管理の目標値を検討。その結果、HbA1c値6%以上8%未満と認知症リスク低減との間に有意な関連が認められ、高齢者における血糖管理目標値の緩和に関する現行ガイドラインの推奨事項と齟齬がないことが確認されたと、JAMA Neurol(2023年4月17日オンライン版)に報告した。
約25万3,000例をHbA1c値で6分類して解析
厳格な血糖管理により、中高年2型糖尿病患者の認知症リスクが低減するか否かは明らかでない。そこでMoran氏らは、米・Kaiser Permanente Northern California(KPNC)の診療データを用いて、中高年2型糖尿病患者における認知症リスク低下に関連する至適血糖目標値を検討した。
対象は、KPNCに1996年1月~2015年9月に登録された50歳以上の2型糖尿病患者25万3,211例(平均年齢61.5歳、範囲50.0~100.9歳、男性53.1%)。期間中のHbA1c測定回数が2回未満の者、登録時に認知症既往のある者、追跡期間が3年未満の者は除外した。
HbA1cのカテゴリーを、①6%未満、②6%以上7%未満、③7%以上8%未満、④8%以上9%未満、⑤9%以上10%未満、⑥10%以上―の6通りに分類。分類に際してHbA1c測定値の平均を用いず、複数回の測定値の50%超が収まる範囲をその患者の該当カテゴリーとした。年齢、人種・民族、性、登録時の健康状態、HbA1c測定回数を調整したCox比例ハザード回帰モデルにより、HbA1cのカテゴリーと認知症との関連を検討した。
6%以上8%未満で認知症リスクを7~21%抑制
平均HbA1c測定回数は11.6±10.0回、平均追跡期間は5.9±4.5年だった。
各カテゴリーの測定値が50%以下だった集団に対する認知症リスクは、HbA1c値が9%以上10%未満の集団では31%高く〔調整後ハザード比(aHR)1.31、95%CI 1.15~1.51、P=0.06〕、10%以上の集団では74%高い傾向にあった(同1.74、1.62~1.86、P=0.57〕。
一方、HbA1c値が6%未満の集団(aHR 0.92、95%CI 0.88~0.97、P=0.002)、6%以上7%未満の集団(同0.79、0.77~0.81、P=0.007)、7%以上8%未満の集団(同0.93、0.89~0.97、P=0.002)では、各カテゴリーの測定値が50%以下だった集団に対し認知症リスクが7~21%有意に低く、リスクが最も低かったのはHbA1c値6%以上7%未満の集団だった。
患者分類の基準を、測定値の75%超が収まる範囲とした感度分析でも同様の結果が得られた。
Moran氏らは「認知症リスクはHbA1c値が9%以上の集団で高かった。今回の結果は、高齢2型糖尿病患者では血糖管理目標値を緩和している米国のガイドラインを支持する結果だった」と結論。「因果関係および他の集団にも当てはめられるかどうかを検討するため、さらなる研究が必要だ」と付言している。
(小路浩史)