オランダ・Medical Center LeeuwardenのRolof G. P. Gijtenbeek氏らは、オランダがん登録(NCR)から、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の使用データを抽出。異なるTKI間で全生存(OS)延長効果に差は見られなかったが、エクソン19の欠失(del19)を有し脳転移を伴う患者に限れば、第三世代TKIのオシメルチニブを使用した患者でOSの有意な延長が観察されたとLancet Reg Health Eur(2023; 27: 100592)に報告した。

一次治療としてのオシメルチニブの実臨床データは少ない

 EGFR遺伝子変異陽性(del19またはエクソン21の点変異であるL878R陽性)の進行NSCLCに対するオシメルチニブのOS延長効果が報告されて以来(N Engl J Med 2018;378:113-125)、ガイドラインでは、進行NSCLCに対する一次治療としてオシメルチニブが推奨されている。オランダでも一次治療として使用されているものの、OSに対するベネフィットを示すリアルワールドのデータはまだ少ない。

 Gijtenbeek氏らは、2015年1月1日~20年12月31日にNSCLCとしてNCRに登録された5万7,592例のうちdel19を保有(654例)またはL878R陽性(455例)のステージⅣ NCLC患者1,109例(女性754例)を同定した。

TKIの種類によるOSの差はなし

 年齢中央値は68歳(四分位範囲60~75歳)で、使用されたTKIはゲフィチニブ19%(213例)、エルロチニブ42%(470例)、アファチニブ15%(161例)、オシメルチニブ24%(265例)だった。

 1,109例中400例(36%)がベースラインで脳の画像検査を受けており、230例(58%)に脳転移が見られた。del19群とL858R陽性群で患者背景に大きな差はなかったが、全身状態(WHO PS) 2以上の患者割合はdel19群の方が多かった(15.0% vs. 8.1%)。

 データカットオフ時点で70%の患者は死亡していた(オシメルチニブ使用群の41%、その他のTKI群の79%)。全体の追跡期間中央値は28カ月、オシメルチニブ使用群に限ると17カ月だった。

 OS中央値はdel19群28.4カ月(95%CI 25.6~30.6カ月)、L858R陽性群17.7カ月(同16.1~19.5カ月)だった(P<0.001)がTKIの種類によるOSの差は観察されなかった。

 脳転移あり群のOSをEGFR遺伝子変異の種類とTKIの種類で層別化したところ、脳転移+del19群においてのみ、オシメルチニブによるOSの有意な改善が見られた〔ハザード比(HR)0.54、95%CI 0.30~0.99〕。

TKIの治療順序に関するガイドラインの推奨は妥当か

 今回の結果についてGijtenbeek氏らは「EGFR遺伝子変異陽性例において del19群のOSがL858R陽性群に比べて長かったのは過去のメタアナリシス(Eur J Clin Pharmacol 2016;72:1-11)の結果と一致している」と指摘。「全体としてのOSベネフィットは、一次治療としてのオシメルチニブと他のTKI(第一世代、第二世代TKI)との間で差はなかった」と考察している。

 一方、脳転移のあるdel19患者においてOS延長効果が見られたことから、さまざまなTKIの有効性は腫瘍の生物学的特徴により異なる可能性があると記している。各TKIの化学構造の違いや薬物動態の違い、喫煙状況や薬物相互作用なども結果に影響した可能性がある。

 結論として同氏らは「一次治療としてのオシメルチニブに明らかなOSベネフィットは見られなかったことから、今回の結果は、TKIの適切な治療順序(sequencing of TKI)に関するガイドラインに異議を呈するものとなった。脳転移のあるdel19のNSCLC患者ではOSベネフィットが得られたが、さらに多数例でのリアルワールドデータによる裏付けが必要である」と述べている。

木本 治