米・University of MichiganのYu Zuo氏らは、多民族一般住民コホート研究Dallas Heart Study(DHS)2のデータを用いて、一般住民における抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody;aPL)陽性率を検討する追跡調査を実施。その結果、全体のaPL陽性率は14.5%だったこと、aPLのうち抗カルジオリピン(aCL)IgA型(aCL IgA型)と抗β2グリコプロテイン(aβ2GPI)IgA型(aβ2GPI IgA型)陽性者では、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクが有意に高かったことをJAMA Netw Open(2023; 6: e236530)に報告した。

陽性率やASCVDリスクに関する知見は少ない

 自己免疫疾患を持つ人のASCVD発症リスクは、従来の危険因子から推定されるよりも高い。その機序として、炎症による血管構造の破綻や血小板/凝固経路の活性化を介した心血管組織のリモデリングが関係しているとされている。

 抗リン脂質抗体症候群(Antiphospohlipid syndrome;APS)は、動・静脈の血栓症や妊娠合併症を来す疾患概念である。現在の分類基準では、aCL(IgG型とIgM型)とaβ2GPI(IgG型とIgM型)、ループスアンチコアグラント(LAC)の3種類が検査項目となっている。しかし、抗フォスファチジルセリン依存性プロトロンビン抗体(aPS/PT)のようにAPS分類基準に含まれないaPLに関しても、血栓塞栓症との有意な関連が報告されている。

 心血管イベント患者の17.4%がaPLを保有しているとの横断研究もあり、一見健康そうな人でもaPL陽性率が1~12%との小規模なコホート研究もある。しかし、aPLの測定法が統一されていないことや、追跡期間の短いことなどから限られた知見しか得られていない。

8種類のaPLサブタイプを免疫アッセイで測定

 多民族を含む一般住民コホート研究であるDHS2参加者の血液サンプルを採取し、固相免疫アッセイで8種類のaPLサブタイプ(aCL IgG型、aCL IgM型、aCL IgA型、aβ2GPI IgG型、aβ2GPI IgM型、aβ2GPI IgA型、aPS/PT IgG型、aPS/PT IgM型)を測定した。

 Zuo氏らは今回、参加時にASCVDおよび免疫抑制薬を要する自己免疫疾患がなかった2,427例〔平均年齢50.6歳、女性1,399例(57.6%)、黒人1,244例(51.3%)、ヒスパニック系339例(14.0%)、白人796例(32.8%)〕を対象に、中央値で8年間追跡して一般住民におけるaPL陽性率、aPLとASCVDリスクとの関連を検討した。

 主要評価項目はASCVDイベント〔非致死性の心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中、冠動脈再建術、心血管死の複合〕で、既知の危険因子や薬剤、多重比較の調整を行った上で、Cox比例モデルを用いてハザード比を算出した。

aCL IgA型とaβ2GPI IgA型でASCVD発症リスク上昇

 2,427例中、各アッセイの閾値に基づき8種類のaPLサブタイプのうち少なくとも1種類陽性だった人の割合は14.5%(353例)で、そのうち約3分の1では抗体力価が中等度以上だった。

 陽性率が最も高かったのはaCL IgM型〔156例(6.4%)〕で、aPS/PT IgM型〔88例(3.4%)〕、aβ2GPI IgM型〔63例(2.6%)〕、aβ2GPI IgA型〔62例(2.5%)〕が続いた。

 解析の結果、aCL IgA型〔調整後ハザード比(HR)4.92、95%CI 1.52~15.98〕とaβ2GPI IgA型(同2.91、1.32~6.41)陽性は、それぞれ独立してASCVD発症と有意な関連が示された。

 陽性力価の閾値をより厳しく40単位以上とした解析では、aCL IgA型とaβ2GPI IgA型のリスクはさらに上昇した(順にHR 9.01、95%CI 2.73~29.72、同4.09、1.45~11.54)。

 aβ2GPI IgA型の力価はコレステロール排出能と有意な逆相関を示し(r=-0.055、P=0.009)、循環酸化LDLとは正の相関を認めた(r=0.055、P=0.007)。aβ2GPI IgA型陽性例では、血管内皮細胞の表面E-セレクチンや細胞接着分子(ICAM)-1、血管細胞接着分子(VCAM)-1の発現増加も認められた。

血液を連続採取する追試に期待

 以上の結果を踏まえ、Zuo氏らは「一般住民コホートの7人に1人強からaPLが検出され、aCL IgA型およびaβ2GPI IgA型の保有は将来のASCVDリスクと関連することが示唆された」と結論。

 ただし、単一時点での検査所見であることから「今回の知見はあくまでも仮説生成の段階であり、今後さらなる検証が必要である。また、ASCVDイベント数自体が少なかったので、人種/民族に関連した交互作用の検出には限界がある。理想的には3カ月程度の連続血液採取を伴う一般住民を対象とした検討が望まれる」と付言している。

木本 治