関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)は、関節リウマチ患者の約10%に併発するが、関節リウマチ治療薬とRA-ILD発症との関連は十分に検討されていない。米・Stanford UniversityのMatthew C. Baker氏らは、全米の医療記録データベースを基に生物学的製剤または分子標的型疾患修飾性抗リウマチ薬(b/tsDMARD)5剤とRA-ILD発症との関連を検討し、その結果をJAMA Netw Open 2023; 6: e233640)に報告。RA-ILD発症リスクが最も低い薬剤を明らかにした。

2万8,000例超のデータで関連を比較

 Baker氏らは今回、全米数千万人の診療・保険請求データを縦断的に集積したデータベースOptum Clinformatics Data Martを使用。同データベースから2003~19年に1年以上継続登録され、TNFα阻害薬アダリムマブ、T細胞刺激調整薬アバタセプト、抗CD20抗体リツキシマブ、IL-6阻害薬トシリズマブ、JAK阻害薬トファシチニブのいずれかを新規に使用した成人関節リウマチ患者2万8,559例のデータを抽出し、RA-ILDに関する転帰を後ろ向きに検討した。

 対象の平均年齢は55.6歳(女性77.6%)で、治療薬の内訳はアダリブマブ1万3,326例、アバタセプト5,676例、リツキシマブ5,444例、トシリズマブ2,548例、トファシチニブ1,565例だった。

トファシチニブで最も発症リスクが低い

 追跡期間中に計276例のRA-ILDが発生した。1,000例・年当たりの粗発症率は、アダリブマブ3.43%(95%CI 2.85~4.09%)、アバタセプト4.46%(同3.44~5.70%)、リツキシマブ6.15%(同4.76~7.84%)、トシリズマブ5.05%(同3.47~7.12%)、トファシチニブ1.47%(同0.54~3.27%)だった。

 関節リウマチ治療薬として最も一般的なアダリムマブを対照薬として多変量Cox回帰分析を行った結果、RA-ILDの発症リスクが最も低い治療薬はトファシチニブだった〔調整ハザード比(aHR)0.31、95%CI 0.12~0.78、P=0.009)。他の3剤とアダリムマブに有意差は認められなかった。

共変数調整後も発症リスクはトファシチニブで68%低い

 ただし、トファシチニブはアダリムマブの使用歴がある患者で三次治療薬として使用されることが多く、両者の比較において固有バイアスが生じるおそれがある。そこでアダリムマブ使用期間を加味した傾向スコアマッチングにより背景をマッチングさせたprevalent new-userコホートを用いて感度分析を行った。

 その結果、アダリムマブ群4,677例とトファシチニブ群1,559例の1,000人・年当たりのRA-ILD粗発症率は、アダリムマブ群が4.30%(95%CI 3.15~5.74%)、トファシチニブ群が1.48%(同0.54~3.28%)だった。アダリムマブ群に対しトファシチニブ群のRA-ILD発症リスクは有意に68%低かった(aHR 0.32、95%CI 0.13~0.82、P<0.001)。

 Baker氏らは「今回の大規模後ろ向き研究において、RA-ILDリスクは評価対象としたb/tsDMARD5剤の中でトファシチニブが最も低く、重要な共変数を調整した後もアダリブマブと比べトファシチニブでリスクが68%低いことが示された」と結論。

 ただし、研究の限界として、トファシチニブ群のサンプルサイズが小さいこと、後ろ向き研究であることなどを挙げ、「関節リウマチ患者のRA-ILD予防におけるトファシチニブの役割について理解を深めるため、前向き研究が必要である」との考えを示している。

(小路浩史)