スウェーデン・Karolinska InstitutetのMarco Trevisan氏らは、ビタミンK拮抗薬(VKA)に比べ直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)使用患者の慢性腎臓病(CKD)や急性腎障害(AKI)リスクは低かったとする後ろ向き大規模コホート研究の結果をAm J Kidney Dis(2023; 81: 307-317)に報告した。
既報では経口抗凝固薬の腎への有害性示唆
高齢者に多い心房細動(AF)は虚血性脳卒中の主な原因の1つとされ、非弁膜症性AF(NVAF)患者には脳卒中や全身塞栓症の予防を目的とした経口抗凝固薬の投与が推奨されている。
経口抗凝固薬の中でもDOACはVKAと比べ脳卒中予防効果は同等以上で、抗凝固作用も安定しているためモニタリングの必要性が低く、かつ出血副作用も少ないことが複数のピボタル試験で示されている。
しかし、DOACまたはVKAによる抗凝固療法は腎臓の有害転帰と関連する可能性があり、VKAがAKIや糸球体濾過量(GFR)低下を引き起こしうるとしたコホート研究もある。DOACについても同様のリスクを示唆する報告はあるが、十分な検討はまだなされていない。
主要評価項目はCKD進行とAKI
Trevisan氏らは、医療利用情報に関するStockholm Creatinine Measurements(SCREM)プロジェクトのデータを利用し、2011~18年にストックホルム地域でNVAFと診断され、DOACまたはVKA(ワルファリン)を開始した18歳以上の患者を同定。治療開始日をindex dateとして追跡した。
ベースラインの共変量として、index dateにおける年齢、性、学歴、飲酒状況、併存疾患、併用薬、脳卒中リスク(CHA2DS2-VAScスコア/modified-CHADS2スコア)、出血リスク(HAS-BLEDスコア)、推算GFR(eGFR)を抽出。
主要評価項目は、①CKDの進行〔eGFRの30%超低下および腎不全(eGFR 15mL/分/1.73m2未満の持続、維持透析の導入、腎移植のいずれか)の複合〕、②AKI(外来または入院時の診断、あるいはKDIGO診断基準に基づくクレアチニン値の上昇〕ー。副次評価項目は、死亡、大出血、脳卒中/全身性塞栓症とした。
AF患者3万2,699例のデータを解析
対象期間中にDOCAまたはVKAが処方された成人AF患者7万1,167例を同定し、組み入れ/除外基準を適用した結果、3万2,699例を解析対象とした。
内訳はDOAC群が1万8,323例(56%)、VKA群が1万4,376例(44%)。95%超の患者は、AF診断から90日以内に経口抗凝固療法を開始していた。
全体の年齢中央値は75歳〔四分位範囲(IQR)68~83歳〕、女性が45%だった。eGFR中央値は73mL/分/1.73m2(同59~85mL/分/1.73m2)で、27%は60mL/分/1.73m2未満だった。併存疾患として最も多かったのは高血圧(72%)で、血管疾患(30%)、がん既往歴(26%)、うっ血性心不全/左室不全(25%)が続いた。
CHA2DS2-VAScスコア中央値は3点(IQR 2~5点)、modified-CHADS2スコア中央値は5点(同3~7点)、HAS-BLEDスコア中央値は2点(同2~3点)だった。
併用薬はβ遮断薬が最も多く(80%)、次いでレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬(56%)、アスピリン(44%)、スタチン(36%)の順だった。
抗凝固薬としてDOACを処方される患者の割合は経時的に増え、2018年にはeGFR60mL/分/1.73m2以上、30~59mL/分/1.73m2、15~29mL/分/1.73m2の患者の98%、95%、69%に処方されていた。
CKD進行、AKI、大出血リスクが有意に低い
VKA群に対するDOAC群のCKD進行の調整後ハザード比(aHR)は0.87(95%CI 0.78~0.98)、AKIのaHRは0.88(同0.80~0.97)といずれも有意に低かった。
同様に大出血のaHRは0.77(95%CI 0.67~0.89)と有意に低ったが、脳卒中/全身性塞栓症のaHRは0.93(同 0.78~1.11)、死亡のaHRは1.04(同 0.95~1.14)で差はなかった。年齢、性、ベースラインのeGFRなどに基づくサブグループ解析でも同様の結果が得られた。
以上の結果を踏まえ、Trevisan氏らは「NVAF患者に対する経口抗凝固療法の実臨床データを後ろ向きに解析した今回の検討から、VKAに比べDOACはCKD進行、AKI、大出血リスクの低下との関連が認められた。一方、脳卒中/全身性塞栓症および死亡のリスクに両群で差はなかった」と結論している。
(木本 治)