運動により全死亡、心血管疾患(CVD)、がんのリスクを抑制できることが知られており、2020年の世界保健機関(WHO)身体活動・座位行動ガイドラインでは、成人に対し週に150〜300分の中強度の有酸素性の身体活動(早歩きなど)を行うことを推奨している。英・University of Cambridge School of Clinical MedicineのLeandro Garcia氏らは、196件3,000万例超のシステマチックレビューおよびメタ解析を実施。推奨の半分の週75分、毎日10分強の運動であっても死亡やCVDおよびがんリスクを抑制したことをBr J Sports Med(2023年2月28日オンライン版)に報告した。
推奨の半分の運動時間でも全死亡リスク23%低下
世界的にCVDは主な死因の1つであり、2019年には全世界で1,790万人が死亡している。またがんによる死亡も多く、2017年には960万人が死亡している。
Garcia氏らは、死亡やCVDおよびがんのリスク抑制に有効な運動量の定量化を目的に、2019年2月までに学術雑誌に掲載された査読済み論文4万8,525件を検証。最終的に94件の大規模前向き研究から3,000万例超を抽出してシステマチックレビューおよびメタ解析を実施した。
解析対象は、全死亡が50件の試験から1億6,341万5,543人・年、81万1,616イベント、CVD罹患が37件の試験から2,888万4,209人・年、7万4,757イベント、がん罹患が31件の試験から3,550万867人・年、18万5,870イベント。身体活動レベルは76%が17.5mMET-時間/週(週に300分の中強度の運動に相当)未満で、35mMET時間/週(週に600分の中強度の運動に相当)を超える者は6%だった。
運動両と死亡リスクの間には非線形の逆相関が認められ、17.5mMET-時間/週を超える運動を行ってもリスク低下に及ぼす寄与は減弱した一方、4.375mMET時間/週(週に75分の中強度の運動に相当)であってもリスク低下への寄与が認められた(図)。8.75mMET-時間/週(週に150分の中強度の運動に相当)では全死亡のリスク比(RR)は0.69(95%CI 0.65〜0.73)、CVDによる死亡のRRは0.71(同0.66〜0.77)、がんによる死亡のRRは0.85(同0.81〜0.89)であったのに対し、4.375mMET時間/週ではそれぞれ0.77(同0.73〜0.80)、0.81(同0.77〜0.85)、0.90(同0.88〜0.93)だった。
図. 運動量と死亡リスクの関連
(Br J Sports Med 2023年2月28日オンライン版)
頭頸部がん、白血病、骨髄腫、胃噴門部がんの罹患リスク低下
また、4.375mMET時間/週の運動によるCVD罹患のRRは0.83(95%CI 0.79〜0.87)で、疾患別に見ると冠動脈疾患が0.86(同0.83〜0.90)、脳卒中が0.86(同0.83〜0.90)、心不全が0.90(同0.85〜0.96)だった。
がん罹患のRRは0.93(同0.91〜0.95)で、がん種別に見ると頭頸部がんが0.74(同0.59〜0.94)、骨髄性白血病が0.80(同0.66〜0.97)、多発性骨髄腫が0.84(同0.59〜0.94)、胃噴門部がんが0.86(同0.78〜0.95)と比較的リスク低下が大きかった。その他のがん種のRRは肺がんが0.89(同0.87〜0.92)、肝がんが0.90(同0.83〜0.98)、子宮内膜がんが0.94(同0.90〜0.99)、結腸がんが0.96(同0.93〜0.99)、乳がんが0.97(同0.96〜0.99)だった。膀胱がん、直腸がん、食道がん、前立腺がん、腎がんではリスク低下を認めなかった。
Garcia氏らは「仮に本研究の対象の全てが週に150分の軽い運動を行った場合、全死亡を15.7%、CVD罹患を5.3%、がん罹患を5.2%抑制し、また推奨の半分である75分であってもそれぞれ10.1%、10.9%、2.5%抑制した可能性がある」と推測している。
(安部重範)