小児期に怖い夢(distressing dreams)を持続的に見た経験のある人は、50歳までに認知障害やパーキンソン病(PD)になるリスクが高いかもしれない―。英国の出生コホートを長期追跡した研究結果がEClinicalMedicine(2023年2月26日オンライン版)に報告された。著者は英・Birmingham City HospitalのAbidemi I. Otaiku氏。
1958年の同一週に生まれた1万7,000人以上を追跡
Otaiku氏はこれまで、中年および高齢者の見る怖い夢が認知障害やPDリスクの上昇と関連することを既に報告している(EClinicalMedicine 2022; 52: 101640、EClinicalMedicine 2022; 48: 101474)。しかし、小児期に怖い夢を見た経験が同様のリスク上昇と関連するかどうかは不明である。
今回解析の対象としたのは、1958年の3月3~9日に英国で生まれた1万7,416人のコホートで、7、11、16、23、33、42、45、50、55歳時に本人、保護者、教師、医師などから得たデータを集計したもの。1958年の同一週に生まれ英国に移住した移民も7、11、16歳時にコホートに追加された。
今回は7歳と11歳時に母親に尋ねた怖い夢に関する回答と、50歳時に施行した3種類の認知機能検査およびPDに関する医師の診断報告を解析した。
なお、怖い夢(distressing dreams)は悪い夢(bad dreams)と悪夢(nightmares)を合わせたもの(bad dreamは恐ろしい/嫌な夢だが目は覚めない、nightmareは恐ろしい/嫌な夢で目が覚めてしまうもの)。
7歳~11歳時の両方で怖い夢を見た人はリスク上昇
7歳時と11歳時の怖い夢に関するデータと50歳時の認知機能/PDデータが利用可能な6,991人(女性50.6%、非白人0.7%)を、7歳/11歳の両時点とも怖い夢の経験なし〔5,470人(78.2%): 怖い夢なし群〕、7歳あるいは9歳のいずれかでのみ怖い夢の経験あり〔1,253人(17.9%): 一過性群〕、両時点で怖い夢を経験〔268人(3.8%): 持続性群〕の3群に層別化した。
50歳時点で267人(3.8%)が認知障害またはPDと診断された(認知障害262例、PD 5例)。
性、人種、出生国、低出生体重、出生時の母親の年齢、社会経済的地位、母乳哺育歴、利き手、同胞の数、過体重、小児期のネグレクト経験、慢性疾患など、あらゆる共変量を調整し解析した結果、50歳時に認知機能障害/PDとなる調整オッズ比は、怖い夢なし群との比較において、一過性群が1.15(95%CI 0.83~1.58)、持続性群が1.85(同1.10~3.11)とリスク上昇の有意な関連が示された(傾向性のP=0.037)。
認知障害とPDを別々に解析してもこの傾向は維持された。
夜驚症の混在とPD評価が早すぎた可能性
今回の結果について、Otaiku氏は「小児期における怖い夢の経験と成人後の認知障害/PDリスクとの関連を検討した初めての研究である」と指摘する一方、PDに関しては症例数が5例と少ないことから、結果の解釈には慎重を要すると述べている。
長期間の前向き追跡データであることは同研究の強みであるが、一方、限界として同氏は①観察研究に不可避の未知の交絡因子の存在、②母親からの聞き取り調査である、③怖い夢について尋ねた質問項目が夜驚症(night terrors)の質問と重複していた、④50歳時点での評価であるーこと、などを挙げている。
②については、母親による報告は怖い夢の経験について過小評価する可能性が指摘されている。③に関しては、怖い夢(悪い夢/悪夢)はレム睡眠時に見る夢のことであり、ノンレム睡眠時に生じる夜驚症とは区別すべきものであるが、今回の一過性群/持続性群の中には夜驚症であるが怖い夢は見ていない例が混在している可能性もある。
しかし、同氏らは「夜驚症患児の多くは怖い夢も見るので、誤分類された人は多くないはずだ」とし、④に関しては、PDの発症は65歳以降が多いことから、50歳時点での評価は早過ぎた可能性があると考察している。
(木本 治)