オランダ・Amsterdam University Medical CentersのRoel P. J. Willems氏らは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用と薬剤耐性腸内細菌目細菌(Drug-Resistant Enterobaterales)の獲得リスクとの関連を検討した症例対照研究の結果をJAMA Network Open(2023年2月23日オンライン版)に発表。PPIの使用は拡張型βラクタマーゼ(ESBL)/カルバペネマーゼを産生する腸内細菌目細菌の獲得リスクの上昇と関連すると報告した。
耐性菌リスク上昇に焦点を絞った解析
ESBLやカルバペネマーゼ耐性は公衆衛生上の重大な問題であり、PPIの過剰処方が薬剤耐性菌の定着リスクを増大させている可能性もある。最近のメタアナリシスで、PPI使用により多剤耐性細菌の定着リスクは70%上昇すると報告された(JAMA Inern Med 2020 180 561-571)。しかしこれらの試験の中にはPPI使用との関連を主要評価項目としていないものが多く、さまざまな交絡因子の存在が予想される。PPIはmultimorbidity(慢性疾患を複数持つ)な高齢者に処方されることが多く、重度の疾患や不健康なライフスタイルから来る要因が、交絡因子として薬剤耐性菌の定着リスクを増大させている可能性も否定できない。
Willems氏はこのように背景を説明した後「われわれの知る限り、PPIの用量や投与期間の影響を主な検討対象とした研究はまだない」と今回の研究の特徴を強調している。
新規陽性者を症例群としPPIの服薬状況でIRRを比較
対象は、2018年12月31日~21年1月6日にAmsterdam University Medical Centersの微生物学研究室のデータベースで同定した18歳以上の入院患者2,239例。
入院時あるいは入院中に採取した検体(糞便、唾液、尿、血液、腹水)を培養し、新規にESBL産生/カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌陽性となった患者を症例とし、リスクセットサンプリングにより年齢と培養日をマッチングした対照群(ESBL産生/カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌陰性)を5:1で選択。さらにバリデーション試験として各群から94例ずつのマッチペアを前向きに登録した。
投与期間(exposure window)day 30とday 90のPPIの服薬状況を症例群と対照群で比較し、ESBL産生/カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌の発生率比(IRR)を条件付きロジスティック回帰分析で検討した。
PPI使用で耐性菌発生リスク48%上昇
2,239例(平均年齢60.9歳、男性51.1%)のうち374例が症例群(同61.1歳、同51.6%)、1,865例(同60.9歳、同51.0%)が対照群となった。
Day 30のPPI使用による症例群と対照群のaIRR〔性、BMI、Charlson Comorbidity Index(CCI)スコア、炎症性腸疾患の有無、ICU入院期間で調整〕は1.48(95%CI 1.15~1.91)だった(Model 1)。
調整因子としてModel 1にセファロスポリン使用を加えた解析(Model 2)や、入院歴、手術歴を加えた解析(Model 3)でも、aIRRはそれぞれ1.43(95%CI 1.11~1.85)、1.38(同1.06~1.80)だった。
さらに、94例ずつのマッチドペアによる感度分析でもday 30のaIRRは2.96(95%CI 1.14~7.74)と同様の結果が得られた。
腸内細菌叢を乱す可能性の高い薬剤(下剤、免疫調整薬、抗菌薬、メトホルミン)とPPI使用との交互作用は認められなかった(それぞれ交互作用のP=0.45、0.30、0.55、0.54)が、下剤と抗菌薬はESBL産生/カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌リスク増加の独立危険因子だった(下剤:aIRR 2.26、95%CI 1.73~2.94、抗菌薬:2.78、2.14~3.59)。
世界的なPPIの乱用に警告
Willems氏らは「有向非巡回グラフ(directed acyclic graph)などを用いてさまざまな要因の視覚化を図り交絡因子の綿密な調整を試みた。さらに複数の感度分析を行うことで結果を補強した」と今回の研究の強みを説明。
一方、症例対照研究であることから隠れた交絡因子は否定できないこと、PPIの用量とリスクとの関連は検討できなかったことを限界として挙げている。
最後に同氏らは「世界中でPPIは乱用されている。今回の知見はPPI使用がESBL産生/カルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌獲得の独立リスク因子であることを支持するものである。PPIのより賢明な使用が求められる」と結んでいる。
(木本 治)