男性の8%が罹患しているとされる性的欲求低下障害(HSDD)はQOLや対人関係、生殖能力に悪影響を及ぼすため患者への負担が大きいにもかかわらず、現時点で有効な治療法はない。英・Imperial College LondonのEdouard G. Mills氏らは、生殖機能の制御に重要な神経ペプチドであるKisspeptinに着目し、HSDDの男性を対象にその有効性および安全性をランダム化比較試験(RCT)により検討。Kisspeptinはプラセボに比べ、性的な脳活動を高め、HSDDに対する初の治療薬となる可能性があることを、JAMA Network Open(2023年2月3日オンライン版)に発表した。
性的ビデオ視聴に反応した脳活動の変化を主要評価項目に
Kisspeptinは脳の広範囲に分布し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を促進することにより、生殖機能の制御において中心的な役割を担う神経ペプチドである。動物モデルでは、キスペプチンシグナル伝達が性的動機および陰茎勃起を含む生殖行動の調節に重要な役割を果たしていることが分かっている。
そこでMills氏らは、KisspeptinがHSDD男性の性的な脳内処理と陰茎勃起を促すとの仮説を立て、HSDD男性37例を対象に二重盲検プラセボ対照RCTを実施した。
HSDDと診断された異性愛男性を対象として、Kisspeptinまたはプラセボを75分かけて7日間間隔で点滴静注した。気分と行動を評価するために投与前後に心理アンケートを実施し、投与30分前から投与終了後まで15分間隔で生殖ホルモンを測定した。Kisspeptin投与中に20秒間の性的ショートビデオおよび8分間の性的ロングビデオを視聴させ、投与後30~60分の間に機能的MRI(fMRI)による脳スキャンを行った。
主要評価項目は、Kisspeptin投与中の視覚的性的刺激による性的な関心に関連する脳内部位の活動の変化。副次評価項目は、陰茎勃起の程度を指標とした生理的性的興奮、性的欲求と興奮などに関連する行動測定値の変化などとした。
性的な脳内処理が有意に改善
37例中32例が試験を完遂し、平均年齢は37.9歳、平均BMIは24.9だった。
性的ショートビデオ視聴中に、プラセボ群に比べKisspeptin群で性的脳内処理ネットワークの主要構造における脳活動が有意に改善された〔平均絶対変化(Cohen d)=0.81(95%CI 0.41~1.21)、P=0.003)。
性的ロングビデオによる視覚的な性的刺激への反応では、プラセボ群に比べKisspeptin群で陰茎勃起が有意に増強された〔平均差=0.28単位(95%CI 0.04~0.52単位)、P=0.02〕。
さらに、プラセボ群に比べKisspeptin群では性的欲求行動が改善され、特に性交に関する幸福感が最も顕著に増加した〔SADI-flushed score(主観的な性的興奮と欲求の評価スケール)の平均差=0.63ポイント(95%CI 0.10~1.15ポイント)、P=0.02〕。
安全性に関しては、Kisspeptinは忍容性が高く、血圧や心臓への悪影響を含め副作用および有害事象は報告されなかった。
これらの知見を踏まえ、Mills氏らは「Kisspeptin投与がHSDDの男性の性的な脳活動を大幅に改善し、性的刺激に反応して陰茎勃起が促された。今回の結果は、Kisspeptinが性的欲求の低い男性に対する治療薬として有効である可能性を初めて示唆するもの」と期待を示している。
(宇佐美陽子)