乳幼児期にはアトピー性皮膚炎(AD)、脂漏性湿疹、接触性皮膚炎、新生児痤瘡(にきび)などさまざまな皮疹が見られる。中でも乳幼児期早期に発症する早期発症型ADはアレルギーマーチに関連することが知られており、早期発見と治療介入が重要である。しかし確定診断は難しく観察期間も長くなる傾向があるため、早期診断を可能にする客観的な指標の確立が求められている。国立成育医療研究センターアレルギーセンターの山本貴和子氏らは、花王との共同研究で乳児の皮脂から抽出したRNA(皮脂RNA)を解析した結果、生後2カ月目でADと診断された乳児では、発症の1カ月前から既にADと類似する皮脂RNAの特徴を有することを見いだし、J Eur Acad Dermatol Venereol2023年3月10日オンライン版)に報告した。

生後1~6カ月児の皮脂RNA発現を検討

 花王は、あぶら取りフィルムを用いることで肌を傷つけずに皮脂を採取し、皮脂中のRNAを網羅的に解析する皮脂RNAモニタリング技術を確立している。山本氏らは、2020年に国立成育医療研究センターで出生した乳児を対象に、生後1~6カ月時に医師による皮膚観察と顔からの皮脂採取を実施。そのうち、皮脂RNA解析ができた乳児90例を対象とした研究を行った。まず、生後1カ月時点でADを発症していた11例と生後6カ月まで皮膚トラブルのなかった6例について、5,457種のRNA発現量を比較した。すると、AD児では免疫応答に関わる分子の発現が高い一方で、皮膚バリアに関わる分子の発現が低いというADに特徴的なRNAの変化が確認された。これは生後6カ月から5歳までの健常児とAD児を対象とした同氏らの既報と同様の結果を示しており(J Eur Acad Dermatol Venereol 2022; 36: 1477-1485)、皮脂RNAモニタリング技術を用いることで、低月齢児においても負担をかけずにADの状態を客観的に知ることができることが示唆された。

 続いて健常児、AD児、痤瘡児、その他の湿疹を有する児について皮脂RNA発現情報を用いた主成分分析を行い、皮脂RNAプロファイルの特徴を確認した。その結果、生後1カ月痤瘡児のRNAプロファイルは健常児に近い場合と、AD児に近い場合があることが分かった。そこで、生後2カ月時の肌状態を追跡した結果、生後2カ月でADと診断された痤瘡児は、ADを発症しなかった児に比べ、生後1カ月時点で既にADに近いRNAプロファイルを有していると判明した(図1)。

図1.生後1カ月時点での皮脂RNAプロファイル

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AD児では皮膚バリア機能関連分子の発現が低下

 さらに山本氏らは、ADに進展する乳児と進展しない乳児の違いを明らかにするため、生後2カ月で痤瘡を有する児の生後1カ月時における皮脂RNAプロファイルの特徴を解析した。AD発症にはバリア機能の低下が強く関与することから、皮膚バリアに関連する62の遺伝子を選定し、遺伝子セット変動解析(GSVA)を行った。その結果、生後2カ月でADと診断された痤瘡児は、そうでない児と比べて生後1カ月時点のバリア機能関連分子群の発現レベルが有意に低く、ADと類似するパターンを示した(図2)。ADに進展する痤瘡については、ADの診断前から皮膚バリア機能関連分子群の発現が低下している可能性が示された。

図2.生後1カ月時点のバリア機能関連分子群の皮脂RNA発現レベル

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(図1、2とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)

 これらの結果から、同氏らは「早期発症型ADに特徴的なRNA発現変化を明らかにするとともに、皮脂RNA情報を用いることでADに進展する予兆を早期に検出できる可能性も示された。今後もADの早期発見に寄与する診断技術の開発を進めていきたい」としている。

(中原将隆)