4月26日に行われた日本医師会の定例会見で常任理事の宮川政昭氏は、昨年(2022年)の欠品・出荷停止・出荷調整に至った医薬品が全体の約3割に上り、供給体制は極めて深刻な状況にあると明かした。この背景には、後発医薬品(後発品)企業の不適切な製造・品質管理や業界の複雑な委受託構造、国の支援不足などがあるという。同氏は、打開策として国に十分な予算措置を要求するとともに「優良企業を残すためにも、価値のある後発品を上市できない企業や、売り逃げする企業を淘汰していくしかない」と強く訴えた(関連記事「医薬品供給問題、治療への影響と今後の展望」)。

製造・品質管理問題の発覚以降、状況はさらに悪化

 2020年に発覚した小林化工の睡眠導入薬混入事案を皮切りに、GMP(Good Manufacturing Practice)違反を行った企業の行政処分が相次いだ。2021年8月時点で全医療用医薬品の約2割を占める3,143品目が欠品・出荷停止・出荷調整となり、昨年の同様の調査では4,234品目と約3割に増加していた(日本製薬団体連合会報告「安定供給の確保に関するアンケート結果について」)。

 さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行や、ウクライナ情勢による海外からの供給不安も相まって「医薬品の安定供給は危機的な状況を迎えている」と宮川氏は述べた。

企業のGMP不遵守と業界構造が招いた惨事

 相次ぐGMP違反の処分に伴い、企業は品質の確保と安定供給に向けて努力しているものの、「取り組みの内容や遵守意識は企業によって差があるのが現状」と宮川氏は指摘する。後発品企業は、1社当たりの製造品目が多い「多品種少量生産」の体制を持つため、同一製造ラインを製品ごとに切り替える方法が常態化している企業があるという。同氏は「薄利多売で財務体力がない後発品企業の経営余力は失われている」と分析。全体に占める後発品のシェアが約8割に上る現在では、1社に問題が発生して供給停止となれば、他社の供給分でカバーするのは困難で、流通に不安定をもたらしている。

 また、企業のルール違反以外に後発品業界特有の構造にも問題がある。ポイントは「共同開発」と「委受託の完全分離」だ。共同開発とは、承認申請に必要な試験を共同開発グループ内の他社の試験を利用して行うことを指し、その上各社が製品を発売することで、結果的に参入企業数の増加を招いている。委受託の完全分離により複数の企業が入り乱れ複雑化し、トレーサビリティが明確でない状況も引き起こされている。後発品企業184社に行った調査では、他社への業務委託は132社(71.7%)が、他社からの製造受託は90社(48.9%)が行っていた(令和3年度「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業」報告書)。

原薬輸入先の集中は大きなリスク

 加えて、原薬調達に大きな偏りが生じている点も事態に拍車をかけている。後発品における粗製品や最終品の調達国別仕入先企業数を見ると、中国が38%、次いでインドが23%を占めている。同様に購入金額についても約50%を中国が占めている。(令和3年度「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業」報告書図1

図1. 後発医薬品における粗製品や最終品の調達国別仕入先企業数および購入金額

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  (日本医師会提供資料)

 安価な原薬を海外から調達した結果薬価は下がり、利益が生まれないため後発品企業の海外依存度はいっそう高まる。国内回帰という方法もあるが、製造コストの著しい増加を招くことから非現実的だと宮川氏は考えており「ひとたびこの状態に陥ると、国内での原薬製造は困難」と指摘した(図2)。

図2. 後発医薬品の原薬調達にまつわる問題構造

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(会見内容を基に編集部作図)

 供給元を特定の国に依存する危険性は海外でも指摘されており、分散化してリスクヘッジすべく、欧米ではサプライチェーンに関与する国を見直す動きが始まっている。

 日本でも、昨年公布された経済安全保障推進法の中でサプライチェーンの強靭化を掲げてはいるが、同氏は医薬品の割合が低く見積もられているように感じている。医薬品と同様に、特定の国からの輸入に依存している肥料に関しては、昨年度の予備費として900億円近くが計上されるなど、厚生労働省と比べ農林水産省に対しては多額の費用が投じられているためだ。

強いリーダーシップと実効性ある対策を

 こうした医薬品供給をめぐる危機的状況に対し、有効な手立てはあるのだろうか。不適切な製造・品質管理を発端とした一連の問題を振り返り、宮川氏は後発品市場で安価な製品を上市し、安定的な供給が可能な優良企業を残す必要があるとして、「価値のある後発品を上市できない企業や、売り逃げをする企業を淘汰していくしかない」と強く指摘する。

 複雑化した委受託構造について、厚労省の審議会における同氏らの再三にわたる訴えで現在は改善されつつあり、国がある程度一括で情報を収集して管理する方向性が見えてきたという。原薬調達の動向に関し、同氏は「国の政策も含め、友好国との連携によりグローバルサプライチェーンの再構築と安定化を図ることを、業界全体で検討すべき」と述べた。また、そのために国が十分な予算措置を取るよう要請を継続していくと表明し、「今後も、緊急事態として国に対し強いリーダーシップと実効性のある対策を求めていく」と断固とした姿勢を見せた。

(平吉里奈)