睡眠時間は長過ぎても短過ぎても死亡リスクの上昇に関連することが示されているが、十分な身体活動によって不適切な睡眠時間による死亡リスクの上昇を緩和できることが、中国・Guangdong Academy of Medical SciencesのYannis Yan Liang氏らの研究(Eur J Prev Cardiol; 2023 :zwad060)で示された。

UK Biobankの参加者9万2,221例を解析

 十分な身体活動と健康的な睡眠はいずれも生存期間の延長に寄与することが明らかにされている。しかし、健康の増進において身体活動と睡眠時間が相互にどのような影響を与えるのかについては不明だった。また、先行研究の多くは自己報告に基づく身体活動量や睡眠時間のデータを用いており、正確性に乏しい可能性があった。

 そこで、Liang氏らは今回、UK Biobankの40~73歳の参加者9万2,221例(平均年齢62.4±7.8歳、女性56.4%)を対象に測定した身体活動量および睡眠時間と、全死亡リスクおよび死因別の死亡リスクとの関連について検討した。対象者の身体活動量や睡眠時間は2013年2月~15年12月に7日間、加速度計を用いて測定された。

 対象者は、睡眠時間に関しては①短時間群(6時間未満)、②通常群(6時間以上8時間以下)、③長時間群(8時間超)―の3群に分類した。また、身体活動量に関しては、1週間を通じた中強度(MPA)または高強度(VPA)の身体活動の合計時間に基づき①第1三分位(身体活動量が少ない群)、②第2三分位群(中程度の群)、③第3三分位群(多い群)―の3群に分類。さらに中高強度身体活動(MVPA)は、WHOの推奨量(1週間当たりMPA 150分以上またはVPA 75分以上、もしくはその組み合わせで同等の時間および強度となる身体活動)に達している群と達していない群に分類した。

 7年間(中央値)の追跡期間中に3,080例が死亡した。このうち1,074例は心血管疾患(CVD)による死亡、1,871例ががんによる死亡であった。

CVD死およびがん死も推奨量の身体活動でリスク上昇消失

 年齢、性、民族、社会経済的状況、BMI、食事関連因子、飲酒の頻度などを調整して解析した結果、身体活動量が少ない群における全死亡リスクは短時間睡眠で37%上昇し〔ハザード比(HR 1.37)、95%CI 1.15~1.63〕、長時間睡眠で16%上昇していた(同1.16、1.04~1.29)。身体活動量が中程度の群では、短時間睡眠のみが全死亡リスクの上昇に関連していた(同1.41、1.11~1.78)。身体活動量が多い群では、睡眠時間と全死亡リスクに関連は認められなかった。

 CVD死リスクに関しては、身体活動量が少ない群において短時間睡眠は69%のリスク上昇に関連していたが(HR 1.69、95%CI 1.32~2.16)、身体活動量が中程度または多いと短時間睡眠に関連した同リスクの上昇は消失した。がん死リスクに関しては、身体活動量が少ない群では長時間睡眠で21%のリスク上昇が認められたが(同1.21、1.05~1.39)、身体活動量が中程度または多いと長時間睡眠に関連した同リスクの上昇は消失した。

 さらに、推奨量のMVPAを行っていない群では短時間睡眠と長時間睡眠は全死亡リスクの上昇に関連していた(短時間睡眠:HR 1.31、95%CI 1.14~1.51、長時間睡眠:同1.20、1.09~1.32)。これらのリスク上昇は推奨量のMVPAを行うことで消失することが示された。CVD死に関しては、推奨量のMVPAに達していない群において短時間睡眠は52%のリスク上昇に関連していたが(同1.52、1.23~1.88)、推奨量のMVPAを行うことで同リスクの上昇は消失することが示された。がん死リスクに関しては、推奨量のMVPAに達していない群では長時間睡眠は21%のリスク上昇に関連していたが(同1.21、1.07~1.37)、推奨量のMVPAを行うことで同リスクの上昇は消失することが示された。

 以上を踏まえ、Liang氏らは「身体活動量が多いことまたは推奨量のMVPAを行うことは、短時間睡眠または長時間睡眠が全死亡リスクおよびCVD死リスクに与える有害な影響を弱めることが示された 」と結論。また、「中年層の早期死亡を予防するには、介入のターゲットを身体活動と睡眠時間のいずれかに絞るよりも、両方とする方が効果的である可能性がある 」との見解を示している。

岬りり子