新型コロナウイルス感染症法上の扱いが「5類」に引き下げられ、個人消費の回復に期待が高まっている。入国時や感染時の制約がなくなり、外国人旅行者や国内の消費には追い風が吹く。経済効果が4兆円を超えるとの試算もある。
 「観光再始動の日」。羽田空港に隣接する商業施設で8日、訪日客の消費を喚起するプロジェクト開始を祝う式典が開かれた。式典は、旅行会社や百貨店などが加盟するジャパンショッピングツーリズム協会が主催。あいさつした同協会の新津研一代表理事は、「ようやく長いトンネルを抜けた」と笑顔を見せた。
 コロナ拡大前の2019年に4兆8135億円だった訪日客の消費額は、21年に1208億円へ激減した。今後、プロジェクトに参加する全国の商業施設や小売店、各地の観光協会は名産品の販売促進や富裕層向け観光ツアーの企画で手を取り合い、免税売り上げの拡大を目指す。中国のインターネット旅行最大手トリップドットコムグループと連携し、特に中国からの誘客を強化する。
 各地の駅や店舗では、感染防止のアクリル板などが撤去され、接客する従業員にマスク着用の判断を委ねる動きも広がる。5類移行について、外食業界は「外出意欲の回復につながる」(大手)と期待。百貨店も、マスク着用者が減れば「化粧品の需要が高まる」(そごう・西武広報)と想定する。
 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、こうした5類移行の経済効果が約4.2兆円に上り、実質GDP(国内総生産)を0.75%押し上げると分析する。このうち、訪日客の消費額は約2.6兆円を見込む。円安進行などにより、「日本の物価水準が相対的に割安になっている」と指摘する。さらに、感染者や濃厚接触者の行動規制がなくなって企業の生産性が向上する効果を約1.1兆円、日本人の消費拡大効果を約0.6兆円と試算した。
 ただ、コロナ禍で在宅勤務が普及するなど、「すべてが元通りになることはない」(大山晃リコー社長)との見方は根強い。SMBC日興証券は、5類移行後も「変化は徐々に生じる」と分析。物価高も踏まえ、個人消費の回復は緩やかに進むと予想する。 (C)時事通信社