出生前の抗てんかん薬への曝露は、早期の神経発達に悪影響を及ぼすことが分かっているが、中長期的な影響は不明だった。デンマーク・Aarhus UniversityのJulie W. Dreier氏らは、北欧5カ国でてんかんの母親から出生した3万8,000児超を対象とした前向きコホート研究を実施。出生前の曝露が小児期および思春期の精神疾患に関連する抗てんかん薬を明らかにし、JAMA Neurol2023年4月17日オンライン版)に発表した。

てんかん薬9剤への出生前曝露による影響を検討

 Dreier氏らは、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの医療記録から、1996年1月~2017年12月に生まれた単胎児454万6,605例のうち、てんかんを有する母親から出生した3万8,661例(男児51.3%)を特定し、前向きコホート研究に組み入れた。染色体異常を有する児または出生時データが不足している児は除外した。

 出生前の抗てんかん薬への曝露は、母親の最終月経前30日間における処方薬9剤※1の受け取りと定義。主要評価項目は13種の精神疾患※2の複合とし、累積発生率とCox比例ハザード回帰モデルを用いた調整後ハザード比(aHR)を算出した。

バルプロ酸は単剤で精神障害の複合リスク上昇

 3万8,661児(研究終了時の平均年齢は7.5±4.6歳)のうち、出生前に抗てんかん薬に曝露したのは1万6,458児(42.6%)。

 抗てんかん薬の単剤療法のうち、出生前曝露が精神疾患の複合リスク上昇と関連していたのはバルプロ酸のみだった(aHR 1.80、95%CI 1.60~2.03)。他の抗てんかん薬の単剤療法では、複合リスク上昇との関連は認められなかったが、抗てんかん薬の併用療法では、バルプロ酸を含むレジメン(同1.85、1.56~2.18)、含まないレジメン(同1.32、1.15~1.51)ともに関連が認められた。

 出生前に抗てんかん薬に曝露した児が18歳までに精神疾患と診断される累積リスクは、バルプロ酸単剤療法で42.1%(95%CI 38.2~45.8%)、バルプロ酸を含む併用レジメンで40.4%(95%CI 35.3~45.5%)だった(17歳までの入手可能データに基づく推定値)。一方、抗てんかん薬非曝露児では31.3%(28.9~33.6%)で、これらの群間差は主に神経発達症によるものだった。

トピラマートはADHD、レベチラセタムは不安障害・ADHDと関連

 ラモトリギン、クロナゼパム、オクスカルバゼピンへの出生前曝露は、精神疾患のリスク上昇と関連していなかった。一方、トピラマートへの出生前曝露は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と関連していた(aHR 2.38、95%CI 1.40~4.06)。また、レベチラセタムへの出生前曝露は不安障害(同2.17、1.26~3.72)、ADHD(同1.78、1.03~3.07)との関連が示された。

 Dreier氏らは、今回の研究結果について「これまでのエビデンスを強化するもので、妊娠中のバルプロ酸使用に対する警鐘を鳴らし、トピラマートやレベチラセタムなどと一部の精神障害リスクとの関連への懸念を提起している」と結論。また、ラモトリギン、クロナゼパム、オクスカルバゼピンについては、「長期的な行動障害や発達障害とは関連せず、安全性に関するエビデンスが示された」としながらも、「出生前の高用量曝露のリスクを否定するものではない」と注意を促している。

※1 バルプロ酸、ラモトリギン、レベチラセタム、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、トピラマート、クロナゼパム、プレガバリン、ガバペンチンの9種。なお、プレガバリンは日本ではてんかん治療薬としての適応はない

※2 物質使用障害、統合失調症スペクトラム障害、気分障害、不安障害、摂食障害パーソナリティ障害知的障害、自閉症スペクトラム障害、その他の発達障害、ADHD、反抗挑戦障害/行為障害、愛着障害、チック障害

(小路浩史)