近年、腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と自閉症との関係を示すエビデンスが蓄積されつつある。台湾・Taichung Veterans General Hospital/Chung Shan Medical UniversityのYi-Feng Lee氏らは、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)を用いた後ろ向きコホート研究を行い、腸内細菌叢を変化させる可能性がある便秘と自閉症スペクトラム障害(ASD)の発症リスクとの関連を検討。その結果、3歳以下の便秘を有さない幼児と比べて有する幼児ではASD発症リスクが有意に高かったとFront Psychiatry(2023; 14: 1116239)に発表した(関連記事「ASD児は就学前の消化器症状が3倍」)。
緩下剤処方の重症例でリスク2倍以上
Lee氏らは、NHIRDの1997~2013年のデータから便秘と診断された3歳以下の幼児1万2,935例(便秘群、女児53%)を特定。さらに、傾向スコアマッチングを用いて年齢、性、併存疾患をマッチングした便秘を有さない幼児(対照群)を1:1で選出し、両群を自閉症発症、国民健康保険からの脱退、2013年12月31日のいずれか早い時点まで追跡し3歳以下の幼児期における便秘とASD発症リスクとの関連を検討した。
その結果、10万人・月当たりのASD発症率は対照群の4.91と比べて便秘群では9.31と高かった。
対照群に対し便秘群はASD発症リスクが有意に高く、粗相対リスクは1.896(95%CI 1.337~2.690)、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて年齢、性、併存疾患、併用薬などの交絡因子を調整後のハザード比(aHR)は1.891(95%CI 1.333~2.684)だった。
便秘の重症度(緩下剤の処方なし、1~2回、3回以上)で層別化した解析では、重症例ほどASD発症リスクが有意に高く、aHRは緩下剤の処方が1~2回の例で2.002(95%CI 1.341~2.989、P=0.0007)、3回以上の例で2.932(同1.660~5.180、P=0.0002)に上った。
男性、アトピー、アレルギー性鼻炎でもリスク上昇
さらに、男性(aHR 3.700、95%CI 2.486~5.506、P<0.0001)、アトピー性皮膚炎(同1.568、1.109~2.218、P=0.0110)、アレルギー性鼻炎(同1.689、1.160~2.458、P=0.0062)もASD発症リスクの上昇と有意に関連していた。
これらの便秘とASD発症リスクとの関連は、腸内細菌叢の構成に大きな影響を及ぼすと考えられる抗菌薬の使用例を除外した感度分析でも一貫して認められた。
以上を踏まえ、Lee氏らは「幼児期の便秘は腸内細菌叢の乱れを招き、ASD発症に関与している可能性が示唆された。便秘を有する乳幼児においては、ASDなどの神経発達障害のリスクに注意すべき」と結論。「腸内細菌叢の変化は、母体の薬物使用や代謝性疾患、遺伝子発現などの他のASD危険因子と比べて治療、分析、予防できる可能性が高い」と付言している
(太田敦子)