日本外科学会と北海道大学は遠隔手術の実施可能性の検証を目的に、メディカロイド、NTT東日本と合同で世界初の献体を用いた遠隔ロボット支援下胃切除術(遠隔操作および遠隔手術支援)の世界初の実証研究を実施。約300km離れた場所から一般回線で接続した場合でもスムーズに操作権の移行が可能で、遠隔操作および遠隔手術支援によりロボット支援下手術が安全に実施できることが示された。

高まる遠隔手術への期待

 自然災害が多く超高齢社会を迎えた日本では、医療資源が少ない地域へのオンライン診療の普及が望まれる。また、新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、オンライン診療に対する期待はさらに高まっている。

 厚生労働省は2018年に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を策定し、2019年の改定においては「遠隔手術支援(遠隔地の指導医が現地の術者に代わって部分的に手術操作を行う)」についてもオンライン診療に含めることが明記された。また、日本外科学会は2022年に『遠隔手術ガイドライン』を策定しており、社会実装に向けた準備と実証研究を進めている。

 遠隔手術の実現により、患者は長距離移動に伴う体力的・経済的な負担を負うことなくロボット支援下手術などの先端的手術を国内のさまざま地域で享受できるようになる。また、全国各地で最新技術の修練が可能な環境が整えば、地域における若手外科医の育成につながり、医師偏在の改善も期待される。

遠隔操作および遠隔手術支援が安全に施行可能

 研究は、日本医療研究開発機構(AMED)研究「手術支援ロボットを用いた遠隔手術の実現に向けた実証研究」の分担研究として、309km離れた北海道大学臨床解剖実習室と市立釧路総合病院で実施。両施設に手術支援ロボット「hinotori」を設置し、まず、胆囊および胃臓器モデルを使用した遠隔操作(市立釧路総合病院から北海道大学の臓器モデルを用いた模擬手術を実施)と遠隔手術支援(北海道大学におけるロボット支援下手術の一部を市立釧路総合病院の指導医が操作)を行った()。

図. 実証研究の概要

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(日本外科学会、北海道大学プレスリリースより)

 続いて、献体を用いた遠隔操作による胃切除術(市立釧路総合病院から北海道大学の献体に対して模擬手術を実施)を行い、さらに遠隔手術支援による胃切除術を施行した。これまで、献体に対する胃切除術を遠隔操作および遠隔手術支援により完遂した検討は報告されておらず、いずれも世界初の試みであるという。

 胆囊モデルによる胆囊切除術(遠隔操作1回、現地操作2回、遠隔手術支援1回)の平均手術時間は21.5分で、いずれも胆囊・胆囊管・動脈の損傷を認めなかった。胃臓器モデルを用いた幽門側胃切除術(遠隔操作1回、遠隔手術支援1回)の平均手術時間は163分で、胃切除から再建まで安全に施行可能だった。

 献体に対する模擬手術では、遠隔操作のロボット支援下幽門側胃切除術の手術時間は245分、遠隔手術支援(現地と遠隔が交互に手術操作)による胃全摘術の手術時間は217分で、いずれも安全に施行可能だった。

 なお、通信回線はセキュリティー確保対策としてIP-VPN(internet protocol-virtual private network)回線にIPsec(internet protocol security)暗号を追加して施行し、全ての工程において通信途絶を認めず、手術映像およびロボット制御に関するトラブルもなかった。

 AMED研究班は今後、他の術式においても献体を用いた検討を実施予定であり、実証研究で得られたデータを踏まえて遠隔手術ガイドラインのさらなる精緻化を目指し、社会実装に向けた準備を進める予定であるという。

(編集部)