アトピーマーチとは、乳児期のアトピー性皮膚炎に端を発し、成長に伴い食物アレルギーや気管支喘息といった他のアレルギー疾患を発症していく経過を指す。アトピー性皮膚炎に影響を及ぼす因子の1つとして入浴習慣が知られており、両者の関連を検討した試験は多く見られる。一方で、入浴習慣によるアトピーマーチへの影響についてはほとんど研究されていない。こうした背景から、富山大学小児科学教室の加藤泰輔氏らは「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の参加者を対象に、乳児期の入浴習慣とアレルギー疾患発症との関連を調査。1歳半のころ入浴時にせっけん類を毎回使用する子供に比べ、そうでない子供では3歳時点でアトピー性皮膚炎食物アレルギーと診断される割合が多かったとの結果をPediatr Allergy Immunol2023; 34: e13949)に発表した。

7万4,000例超のデータを解析

 エコチル調査は、子供の健康に影響を与える環境要因を解明する目的で環境省が行っている全国出生コホート調査。2011年1月〜14年3月に登録された15の対象地域に住む妊婦10万人超が出産した子供が13歳になるまで追跡する計画となっている。参加者は血液や尿などの試料提供と、質問票への記入などに協力する。

 今回の検討では、子供が1歳半のときに母親に配布した質問票から、入浴(シャワー浴を含む)習慣および入浴時のせっけん類使用頻度に関する情報を収集。また、3歳時の質問票で、2〜3歳に診断されたアレルギー疾患を尋ねた。1歳半時の入浴習慣と3歳時のアレルギー疾患の情報を収集できた7万4,349例を解析した。

 その結果、ほぼ全例が1歳半時に毎日入浴していた一方、せっけん類の使用頻度には差が見られ、「毎回使う」が6万7,700例(91.1%)、「だいたい毎回使う」が4,372例(5.9%)、「ときどき使う」が1,546例(2.1%)、「ほとんど使わない」が713例(1.0%)だった。使用頻度が低い群ほど1歳半時に湿疹が認められた割合が多かった。また、①アレルギー疾患歴のある母親は子供に対しせっけん類を使用する頻度が低い、②気温が低い時期(12〜5月)に生まれた子供でせっけん類を使用する頻度が高い-といった傾向が見られた。

せっけん使用頻度が低いほどアトピー性皮膚炎のリスクが上昇

 事前に選択した21の変数(母親の年齢、アレルギー歴、能動喫煙、受動喫煙、児の性、出生時期、託児施設の利用、授乳方法、ペットの飼育など)を調整した一般化線形混合モデルを用い、1歳半時点の入浴時のせっけん類使用頻度と3歳時点でのアレルギー疾患発症との関連について解析した。その結果、せっけん類使用頻度の低さとアトピー性皮膚炎の診断リスクとの関連が示された〔「毎回使う」群に対する調整オッズ比(aOR):「だいたい毎回」群1.20、95%CI 1.06〜1.36、「ときどき」群1.77、同1.49〜2.10、「ほとんど使わない」群2.00、同1.58〜2.54、傾向性のP<0.0001〕。食物アレルギーについても同様の関連が示された(「毎回使う」群に対するaOR:「だいたい毎回」群1.21、同1.06〜1.37、「ときどき」群1.38、同1.14〜1.66、「ほとんど使わない」群1.53、同1.18〜1.98、傾向性のP<0.0001)。一方、気管支喘息とせっけん類使用頻度との間には有意な関連は見られなかった()。

図. 入浴時のせっけん類の使用頻度とアレルギー疾患との関連

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(富山大学プレスリリースより)

 サブ解析の結果、1歳半時の湿疹の有無にかかわらず、せっけん類使用頻度の低さとアトピー性皮膚炎および食物アレルギーのリスク上昇との関連が判明した(全て傾向性のP<0.0001)。

せっけん頻回使用で皮膚細菌叢の異常が改善?

 以上から、加藤氏らは「1歳半のころ入浴のたびにせっけん類を使用する子供と比べて、使用頻度が低い子供では3歳時点でアトピー性皮膚炎食物アレルギーと診断される割合が多かった」と結論した。

 今回の研究は、1歳半時点の入浴時のせっけん類使用状況と3歳時点でのアレルギー疾患の診断との関連を検討したもので、せっけん類の使用がアレルギー疾患の発症に及ぼす影響を調べたものではない。しかし、アトピー性皮膚炎患児では非発症児と比べ、乳児期に皮膚における黄色ブドウ球菌の感染率が高かったとするコホート研究結果が報告されている(J Invest Dermatol 2017; 137: 2497-2504Sci Transl Med 2020; 12: eaay4068)。同氏らは「乳児期のせっけん類使用がアトピー性皮膚炎を予防することを示した臨床試験はないが、今回のわれわれの検討から、頻回のせっけん類使用によりアトピー性皮膚炎発症に関与する皮膚の細菌が除去され、皮膚細菌叢の異常(dysbiosis)が改善した可能性がある」と考察している。

 なお、同氏らは研究の限界として、収集した情報は保護者が回答した質問票に基づくため正確性に欠ける可能性がある、せっけん類の種類(アルカリ性、酸性、中性、抗菌薬含有の有無など)についての情報は不明なことなどを挙げている。

(編集部)