新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は今月(2023年5月)8日から5類感染症に移行し、世間では脱マスクが進みつつある。国立感染症研究所感染症疫学センターの新城雄士氏らは日本ECMOnetと共同で、デルタ株流行期~オミクロン株流行期における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの重症肺炎に対する予防効果を検討。呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎に対する有効率は、デルタ株流行期に96%と高い有効性を示し、オミクロン株流行初期には2回接種後半年で42%に低下するものの、3回接種で85.6%まで上昇した(関連記事「コロナワクチン重症化予防評価の協力要請」)。

21施設・1,987人が対象

 これまで、SARS-CoV-2ワクチンのCOVID-19発症予防効果に関する症例対照研究が行われ、有効性が示されてきた(関連記事「オミ株対応2価ワクチンの予防効果は高い」、「3回目接種後3カ月以内で発症予防効果65%」)。しかし、ワクチンの重症化予防効果に関する国内のエビデンスは極めて少なかった。そこで新城氏らは今回、日本ECMOnetと共同で、デルタ株流行期(2021年8月1日~11月31日)~オミクロン株流行期初期(BA.1/BA.2系統流行期:2022年1月1日~6月30日)における呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎発症(中等症Ⅱ以上相当)および人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎発症(重症相当)に対する予防効果を検討すべく、症例対照研究を実施した。

 調査対象は、2021年8月1日~22年6月30日に、9都府県の医療機関21施設に酸素療法を要するCOVID-19肺炎、COVID-19以外の肺炎心不全、その他呼吸器疾患などの呼吸不全で入院した16歳以上の患者。SARS-CoV-2陽性者を症例群、陰性者を対照群に分類し、ワクチン接種歴(接種回数および接種後の期間)で8つのカテゴリーに分けた。

 解析は、ロジスティック回帰モデルを用いてCOVID-19肺炎発症のオッズ比(OR)を算出。調整因子として入院時年齢、性、独自の重症化リスクスコア、過去1年間の入院の有無、喫煙歴、入院医療機関の所在地、入院日のカレンダー週(2週ごと)を組み込んだ。ワクチンの有効率は(1-調整OR)×100で推定した。

 2,244人を登録し、発症日が不明の者、発症15日以降に入院した者、3カ月以上前にCOVID-19診断歴がある者など257人を除外し、1,987人を解析に組み入れた。

人工呼吸器患者では、2回接種半年後も高い有効性

 主な背景は年齢中央値が68歳(範囲52〜82歳)、男性が66.9%、症例群が1,511人(76.0%)、対照群が476人(24.0%)だった。ワクチンの種類は、全ての回で判明している者においてファイザー製が86.8%、モデルナ製が7.5%、mRNAワクチンの交互接種が5.0%、その他のワクチンが0.7%だった。変異株ごとのワクチン接種歴別に見た、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎発症の調整ORは表1の通り。

表1. 変異株ごとの呼吸不全患者におけるワクチン接種歴別に見た感染のOR

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 また症例群を、人工呼吸器を要するCOVID-19患者に限定しORを算出した(表2)。

表2. 人工呼吸器を要するCOVID-19患者と呼吸不全の対照群におけるワクチン接種歴ごとのOR

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 調整ORを基に算出したワクチン有効率は、デルタ流行期において呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎に対し96.0%、人口呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対し99.9%と極めて高率だった。オミクロン株流行期では、COVID-19肺炎に対し2回接種後180日以降で42.2%と低下したものの、3回接種で85.6%まで上昇した。一方、人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対しては2回接種から180日経過後も高い有効性が継続していた(表3)。

表3. ワクチンの重症化予防効果

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(表1~3とも新型コロナワクチンの重症化予防効果を検討した症例対照研究の暫定報告より)

 以上の結果を踏まえ、新城氏らは「デルタ流行期におけるワクチン2回接種の高い重症化予防効果と、オミクロン株流行期における3回接種の高い重症化予防効果が示された」と結論。感染症法上の位置付けは5類に移行しているが「今後も有効性や安全性のエビデンスに基づいてSARS-CoV-2ワクチンの接種戦略を検討することが重要」と付言している。

(平吉里奈)