心原性ショックや重度の心機能低下が見られる例では、冠動脈バイパス術(CABG)術前から機械的補助循環(MCS)が使用される。大阪警察病院ではCABGの周術期に、補助循環用心内留置型ポンプカテーテル(IMPELLA)を用いる場合が多いという。同院心臓血管外科の堂前圭太郎氏は第25回日本冠動脈外科学会(2022年12月1~2日)で、CABG周術期におけるIMPELLAのメリットについて同院の治療成績を交えて解説した。

通常のバイパス術と同様の手技が可能

 大阪警察病院では、IMPELLAを適応とした症例の60%で急性心筋梗塞(AMI)が見られ、心臓血管外科手術の周術期におけるIMPELLAの使用割合は64.4%と半数以上を占めていた。同院の治療方針では、まずIMPELLAで補助循環を行った後に病変評価を行い、ハートチーム全体で術式を決定する。特に多枝病変では、まず責任病変への経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施し、その後状態を安定化させCABGを実施するが、術中、術後もIMPELLAを用いた管理を行っている。「CABG周術期にIMPELLAを用いることで、①術前状態の改善、②安全な術中管理、③心機能の改善―を目指している」と堂前氏は述べた。

 IMPELLAを用いることで、CABG術中に吻合手順や中枢側吻合といった通常の心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)と同様の手技が可能になる。なお流量と循環の確認や術中経食道心エコー(TEE)での評価といった点では、麻酔科医やメディカルエンジニアとのコミュニケーションが重要になる。また内胸動脈(ITA)剝離面や吻合部の出血、on pump conversionでは注意が必要な面もある。

周術期の完全血行再建率は100%

 続いて堂前氏は、同院で術前にIMPELLAを用いた後、CABGを施行した12例〔平均年齢68.4±13.3歳、左室駆出率(LVEF)27.3±16.9%、米国胸部外科学会(STS)スコア34.1±25.3、SYNTAXスコア33.0±5.8〕の治療成績を提示した。

 術前補助循環の内訳はIMPELLAが8例、体外式模型人工肺+IMPELLA(ECPELLA)が4例で、術前循環動態の安定化は12例と100%だった。平均心肺出力(CPO)は0.42±0.13Wから0.91±0.22Wへと上昇し、血清乳酸値は5.7±3.6mmol/Lから2.0±0.9mmol/Lに低下した。なお、OPCABを施行した11例の平均吻合本数は3.2±0.9本、完全血行再建率は100%であった。

 術後は平均IMPELLA補助期間10.2±1.9日(範囲2~20日)を経て、11例(91.7%)がIMPELLAを離脱。平均LVEFは術前の24.2±8.6%から38.6±13.1%へと上昇し()、ほぼ全例で心機能が改善した。

図. 平均LVEFの変化

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(堂前圭太郎氏提供)

 合併症は肺炎が3例で、縦隔炎、脳梗塞脳出血、再開胸止血が各1例であった他、30日死亡2例、院内死亡4例(肺炎2例、脳梗塞1例、脳出血1例)となった(平均STSスコア34.1%)。同氏は「IMPELLAを用いたCABG施行では、患者選択が重要である」と述べた。

高リスク例への適応拡大に期待

 同院ではIMPELLAを導入したことで、AMIにおけるCABG適応症例数が増加。術前におけるMCSはIMPELLA使用が最も多く、その背景にはIMPELLA適応と判断された患者を循環器内科から紹介してもらうといったハートチームの連携があるという。

 堂前氏は「IMPELLAを術前から使用することで、安定した循環管理が可能になり、吻合や術中管理の負担も軽減されるなど、さまざまなメリットがある。今後さらなる治療成績の向上に向け、心機能低下などの高リスク例への適応拡大に期待したい」と強調した。

(渡邊由貴)