高血圧、高血糖、LDLコレステロール(LDL-C)高値は脳卒中の危険因子であり、脳卒中未発症の成人において認知機能低下に関連することが示されている。しかし、脳卒中サバイバーでは、必ずしもそうでない可能性が示された。米・University of MichiganのDeborah A. Levine氏らは、同国のコホート研究4件・982例の被験者個人データ(individual participant data;IPD)に基づくメタ解析を実施。その結果、脳卒中後の認知機能低下は血糖値が高い者ほど速く進行する一方、収縮期血圧(SBP)およびLDL-C値との関連はなかったと JAMA Netw Open2023; 6: e2313879)に発表した。

血糖の累積平均値が上昇するなど認知機能が低下

 解析対象の研究は、①Atherosclerosis Risk in Communities (ARIC)、②Cardiovascular Health Study(CHS)、③Framingham Offspring Study(FOS)、④Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke Study(REGARDS)ーの4件。各研究の追跡期間中に脳卒中を新規発症し、その時点で認知症を発症していなかった18歳以上の被験者982例をメタ解析に組み入れた。脳卒中発症時の年齢中央値は74.6歳で、男性が51.1%、白人が70.6%、黒人が29.4%を占め、脳卒中発症後の追跡期間中央値は4.7年(四分位範囲2.6~7.9年)だった。

 主要評価項目は包括的認知機能の変化、副次評価項目は実行機能および記憶機能の変化とした。認知機能スコアは、平均が50、標準偏差(SD)が10の正規分布に近似するように標準化した偏差値(t score)で評価した(高スコアほど機能良好、偏差値1がSD 0.1に相当)。

 脳卒中後のSBPおよびLDL-Cの累積平均値を調整後の解析では、脳卒中後の血糖の累積平均値が高くなるほど包括的認知機能の低下が加速することが示された(10mg/dL上昇するごとに-0.04/年、95%CI -0.08~-0.001/年、P=0.046)。

 脳卒中発症後12年の時点で、累積平均血糖値の最高群(166mg/dL)と最低群(86mg/dL)の包括的認知機能スコアの差は2.8に拡大した(42.9ポイント vs. 45.7ポイント)。

 一方、脳卒中後の累積平均血糖値と実行機能および記憶機能に関連は認められなかった。また、脳卒中後の累積平均SBPおよびLDL-Cは、いずれの認知機能の評価項目とも関連が認められなかった。

apoE4で関連は変化せず、非AD神経変性の可能性

 さらに、アポリポ蛋白Eε4アレル(apoE4)に関するデータが得られた798例を対象に、apoE4およびapoE4×時間の交互作用を調整したサブグループ解析を行った。その結果、脳卒中後の累積平均血糖値の上昇に伴う包括的認知機能低下の加速が、脳卒中後の累積平均SBPおよびLDL-Cの調整前(10mg/dL上昇するごとに-0.05/年、95%CI -0.09~-0.01/年、P=0.01)、調整後(同-0.07/年、-0.11~-0.03/年、P=0.002)ともに一貫して認められた。

 以上の結果について、Levine氏らは「脳卒中後の高血糖状態は、脳微小血管損傷、酸化ストレス、炎症、神経変性を通じて認知機能低下を加速させることが示された。apoE4が脳卒中後の血糖値と包括的認知機能低下との関連を変化させるというエビデンスは認められなかったので、脳血管性および非アルツハイマー病(AD)性の神経変性経路が脳卒中サバイバーにおける血糖関連の認知機能低下を引き起こしている可能性がある」と指摘し、「脳卒中後の認知機能を維持する上で、血糖値が治療標的となることが示唆された」と述べている。

(太田敦子)