これまで、内臓型肥満新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を関連付ける報告は複数なされてきた。東京医科歯科大学大学院膠原病・リウマチ内科学分野講師の細谷匡氏らは新たに日本人を対象として後ろ向きに検討を行い、内臓脂肪量がCOVID-19の強い予後予測因子であることを見いだした。また、マウスを用いた実験で内臓型肥満がCOVID-19による炎症を増強させるメカニズムを解明し、Proc Natl Acad Sci USA2023; 120: e2300155120)に報告した。

内臓脂肪組織面積が患者のCRP値と相関

 細谷氏らはまず、2020年4月1日~21年8月31日にCOVID-19で東京医科歯科大学病院に入院した患者250例〔年齢中央値65歳、四分位範囲(IQR)51~74歳、男性196例、BMI中央値23.9、IQR 21.20~26.57、喫煙者42例、糖尿病77例、慢性腎臓病ステージG3 64例、G4 20例)について解析を行った。対象の入院時におけるCOVID-19重症度は軽症81例、中等症77例、重症92例で、34例が入院中に死亡した。

 CT画像を用いて内臓脂肪組織(VAT)と皮下脂肪組織(SAT)を定量化し、BMIとともに解析をしたところ、いずれもCOVID-19の重症度と関連していた(順にP<0.001、P<0.01、P<0.01)。さらに多変量解析を行った結果、VATがCOVID-19による死亡の独立した危険因子であることが分かった(P<0.0001)。

 入院中の生存率についてKaplan-Meier生存解析を行うと、VAT高値の患者で生存率は低下したが(P<0.000)、SATまたはBMI高値の患者では変化がなかった(順にP=0.3553、P=0.4118、図1)。

図1. VAT値とBMI値別に見たCOVID-19入院患者の生存率

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 70歳未満の患者では、VAT値はピーク時のC反応性蛋白(CRP)値などとも相関しており、内臓脂肪の蓄積がCOVID-19による炎症を増強させ、重症化につながると考えられた。

内臓型肥満マウスでサイトカインストームが発生

 次に細谷氏らは、レプチンリガンドを欠損させ内臓脂肪の蓄積が優位になるob/obマウスと、レプチン受容体を欠損させ皮下脂肪の蓄積が優位になるdb/dbマウスを作製。両マウスを新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染させて肥満との関連を解析した。

 感染後、ob/obマウスは全例が早期に死亡したのに対し、db/dbマウスと野生型マウスは全て生存した。感染極期の肺組織を調べると、炎症の広がりや肺障害の程度に3系統のマウスで大きな違いはなかったが、ob/obマウスの肺胞でSARS-CoV-2陽性マクロファージとSARS-CoV-2のゲノムRNAが多く検出された。インターロイキン(IL)-6やⅠ/Ⅱ型インターフェロン(IFN)などによる炎症反応も増強しており、サイトカインストームが発生したことが示唆された。

 そこで、ob/obマウスにCOVID-19治療薬であるIL-6受容体阻害薬トシリズマブを投与したところ、生存率が有意に改善したことから(P<0.05)、IL-6の過剰生産がSARS-CoV-2感染ob/obマウスの死因の1つであることが明らかになった(図2)。

図2. ob/obマウスのSARS-CoV-2感染後と治療介入後の生存率

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内臓脂肪量の減少で生存率が向上

 さらに細谷氏らは、肥満のob/obマウス、レプチンを6週間持続投与して肥満を解消させた痩せob/obマウス、感染直前にレプチンを投与した肥満のob/obマウスをSARS-CoV-2に感染させた(図3-左

 すると痩せob/obマウスでは生存率が向上し(図3-右)、肺胞領域でのSARS-CoV-2陽性マクロファージおよびSARS-CoV-2のゲノムRNAの検出が減少して、IL-6やIFNによる炎症反応が減衰した。

図3. レプチン投与のイメージ(左)とob/obマウスの生存率(右)

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(図1~3とも東京医科歯科大学のプレスリリースより)

 感染直前にレプチンを投与した肥満ob/obマウスでは生存率の改善が得られなかったことから、同氏らは、内臓型肥満の改善がサイトカインストームの抑制と生存率の改善につながったと結論。「今後は、前向き研究によって結果の妥当性を検証する必要がある」としながらも、「体重の減少だけでなく、運動習慣や食習慣と密接に関連する内臓脂肪量の減少が、COVID-19重症化リスクの軽減につながる可能性を示した点は意義深い」とコメントしている。

編集部