糖尿病は「ひとたび発症したら治らない」「一度薬を飲み始めると一生飲み続けなければならない」と言われてきた。しかし、新潟大学大学院血液内分泌代謝内科学分野特任准教授の藤原和哉氏らの研究グループが2型糖尿病患者の臨床データを後ろ向きに解析したところ、糖尿病発症例のうち100人に1人は血糖値が正常化し薬物療法に至らない、または不要となることが明らかになったと、Diabetes Obes Metab2023年5月8日オンライン版)に報告した。

JDDM登録データ4万8,320例を検討

 「糖尿病を発症すると一生付き合わなければならない」と言われてきたが、食事療法運動療法をはじめとした生活習慣改善、薬物療法、肥満外科手術などによる減量により血糖値が正常まで改善し、薬物療法が不要となるケースがある。米国糖尿病学会(ADA)を中心とする国際的な専門家グループは、薬物療法を行っていない状態で3カ月以上HbA1c値6.5%未満を持続しているケースを「糖尿病の寛解」と定義した(Diabetes Care 2021; 44: 2438-2444)。しかし、日本人2型糖尿病患者における寛解の割合や、寛解に関連する因子は明らかでない。さらに、寛解例が寛解状態を維持できる期間についても検討されていない。

 そこで藤原氏らは、全国の糖尿病専門施設が参加する糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)のデータベースからHbA1c値が6.5%以上および/または血糖降下薬を処方されている18歳以上の日本人2型糖尿病患者4万8,320例を抽出。寛解および寛解から1年後の再発の発生率と関連因子を検討した。寛解は血糖降下薬を中止または未使用で、少なくとも3カ月間HbA1c値6.5%未満を維持している場合と定義した。

寛解例の3分の2が1年以内に再発

 検討の結果、中央値で5.3年の追跡期間中に3,677例が寛解に至り、1,000人・年当たりの寛解発生率は10.5だった。

 寛解の関連因子を観察開始時の背景から検討したところ、①男性、②40歳未満、③糖尿病診断から1年未満、④HbA1c値7.0%未満、⑤BMI高値、⑥1年間の減量幅が5%以上、⑦薬物療法未施行―の例では寛解に至る割合が高かった。中でも薬物療法未施行、HbA1c値7.0%未満、1年間の減量幅が5.0〜9.9%および10%以上の例では1,000人・年当たりの寛解発生率がそれぞれ21.7、27.8、25.0、48.2と高かった()。

図. 性、年齢、罹病期間、HbA1c、BMI、1年の体重変化、治療別に見た1,000人・年当たりの寛解発生率

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(新潟大学プレスリリースより)

 1年間の体重変化と寛解については、BMIが5.0〜9.9%低下した場合(オッズ比2.23、95%CI 2.01〜2.47)、10%以上低下した場合(同4.70、4.13〜5.36)との関連が見られた一方で、体重が増加すると寛解を達成しにくい傾向が示された。

 寛解例のうち2,490例(67.7%)が1年以内に再発(HbA1c値の再上昇)していた。再発の関連因子を観察開始時の背景から検討したところ、糖尿病診断後の期間が長い、BMI低値に加え、観察開始時に比べ体重が増加した例で再発しやすい傾向が見られた。

減量と適正体重の管理が寛解維持のポイント

 以上の結果を受け、藤原氏らは「日本人2型糖尿病患者における寛解および再発の発生率と予測因子が初めて明らかになった。これまで『糖尿病は治らない』と⾔われていたが、たとえ2型糖尿病と診断されても、早期から⽣活習慣改善や薬物治療に取り組み、減量することで寛解は可能であり、体重の適正な管理が再発の予防に重要である可能性が⽰された」と結論。その上で「今回の研究は観察研究であり、今後、介入研究で⽣活指導や薬物療法による寛解達成、持続などについて検討する必要がある」としている。

編集部