排卵誘発は排卵障害を有する不妊症の有望な治療法であり、多くの研究で卵巣がんリスクに寄与しないことが示されているものの、排卵誘発薬による排卵回数の増加や過剰なエストロゲン産生が卵巣上皮細胞の悪性化を誘導し、卵巣がんリスクを高めるとの懸念がいまだ残されている。中国・First Affiliated Hospital of Nanjing Medical UniversityのLiang Yu氏らは、排卵誘発治療と卵巣がんの関連についてシステマチックレビューとメタ解析を実施。多くの場合、卵巣がんのリスクを高めることはないが、出産経験のない不妊症女性では注意が必要であるとJ Ovarian Res2023; 16: 22)に報告した。

34件・365万3,303例を解析

 Yu氏らは、2022年1月までにPubMed、EMBASE、MEDLINE、Google Scholar、Cochrane Library、CNKIに収載された排卵誘発と卵巣がん(浸潤性卵巣がん/境界悪性腫瘍)に関する英文および中文の研究を検索。症例対照研究14件、コホート研究20件の365万3,303例を解析に組み入れ、研究方法、出産経験、排卵誘発サイクル数、排卵誘発薬の種類で層別化したサブグループ解析を行った。

 症例対照研究14件〔浸潤性卵巣がん12件、境界悪性腫瘍5件(重複あり)〕の統合解析の結果、排卵誘発群と対照群で浸潤性卵巣がん〔オッズ比(OR)1.09、95%CI 0.88〜1.35、中等度異質性(I2=54.9%)〕および境界悪性腫瘍〔同1.90、0.89〜4.09、中等度異質性(I2=73.4%)の発生に有意差はなかった。

 同様に、コホート研究20件〔浸潤性卵巣がん18件、境界悪性腫瘍7件(重複あり)〕でも排卵誘発群と対照群で浸潤性卵巣がん〔OR 1.11、95%CI 0.91〜1.35、低異質性(I2=21.8%)〕および境界悪性腫瘍〔同1.34、0.97〜1.83、中等度異質性(I2=50.5%)〕の発生に有意な関連は見られなかった。

境界悪性腫瘍のオッズ比1.5

 出産経験別のサブグループ解析では、経産婦は排卵誘発と浸潤性卵巣がん〔OR 0.83、95%CI 0.65〜1.65、低異質性(I2=21.3%)〕、境界悪性腫瘍〔同1.17、0.55〜2.48、中等度異質性(I2=73.5%)〕との関連は見られなかった。

 一方、未経産婦では、排卵誘発と浸潤性卵巣がんの発生に関連はなかったが〔OR 1.55、95%CI 0.94〜2.57、中等度異質性(I2=69.5%)〕、境界悪性腫瘍の発生との関連が見られた〔同1.49、1.03〜2.15、低異質性(I2=0%)〕。

 排卵誘発治療を受けた未経産婦では、浸潤性卵巣がん〔OR 3.35、95%CI 2.10〜5.34、中等度異質性(I2=52.2%)〕および境界悪性腫瘍〔同2.58、1.76〜3.79、低異質性(I2=0%)〕のいずれも関連が認められた。

 排卵誘発サイクル数(3、6、12回以上)や排卵誘発薬の種類(クロミフェン、ゴナドトロピン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト閉経期ゴナドトロピン、ゴナドトロピン関連ホルモンアナログ)は、浸潤性卵巣がんおよび境界悪性腫瘍の発生に関連しなかった。

 以上から、Yu氏らは「排卵誘発治療は排卵誘発薬の種類や排卵誘発サイクル数にかかわらず、多くの場合、浸潤性卵巣がんおよび境界悪性腫瘍のリスクを高めなかった。しかし排卵誘発後に出産に至らなかった不妊症女性ではリスクが高まる可能性があるため、厳密なモニタリングと継続的なフォローアップが必要だ」と結論している。

編集部