政府が1日公表した「こども未来戦略方針」の素案は、追加財源の確保に当たって「増税は行わない」と明記した。2024年度から3年間の「加速化プラン」に充当する年3.5兆円規模の財源を捻出する手だては、歳出改革の徹底を軸に今後具体化する。増税を封印して与野党や国民の批判をかわす狙いが透けるが、医療・介護など社会保障費の削減に踏み込めば反発は必至で、安定財源確保には難路が待ち受ける。
 素案は追加財源について「28年度までに安定財源を確保する」との方針を示した。歳出改革と併せ、企業や幅広い世代の個人が負担する「支援金制度」などによって賄う。児童手当の拡充などは財源確保を待たずに先行実施し、不足分は将来の安定財源で償還することを前提に「こども特例公債」を発行して充てる。
 支援金制度は年末に詳細を決めるが、現役世代だけでなく退職後の高齢者も負担する公的医療保険の仕組みを使って徴収する案が浮上している。一方、社会保障の歳出改革によって社会保険料の引き上げを抑え、支援金の負担と「相殺」する。素案は「実質的に追加負担を生じさせないことを目指す」と強調した。
 昨年末、防衛費増額の財源として政府が打ち出した法人税増税や復興特別所得税の転用に対し、与党内から批判が噴出した。このため、少子化対策の財源確保を巡り、岸田文雄首相は増税論議を早々に封印。この結果、歳出改革の成否が財源確保の鍵を握ることとなった。
 24年度は診療報酬と介護報酬のダブル改定が予定されており、年末までの少子化対策財源の議論では、両報酬の伸びをどれだけ抑えられるかが課題となる。所得や資産に応じて医療・介護費の高齢者自己負担を引き上げるかどうかも重要な論点。しかし、自民党が先月26日に開いた政調全体会議は、「社会保障費に切り込むべきではない」などと反対論の大合唱となった。
 首相肝煎りの子ども・子育て予算「倍増」は30年代初頭までに達成する目標を掲げた。実現にはさらに1兆~2兆円規模で追加財源の確保を迫られる見通しだ。消費税を含む増税論議を先送りしたまま歳出改革も切り込み不足に終われば、赤字国債の発行が現実味を帯びる。そうなれば、将来世代にツケを回して「異次元の少子化対策」を続ける皮肉な結果になりかねない。 (C)時事通信社