エムポックスはサル痘ウイルス(エムポックスウイルス)感染を原因とする人獣共通感染症で、同ウイルスに対するワクチンはないが、天然痘ウイルスと同科同属の近縁ウイルスであることから、日本ではエムポックス予防において天然痘ウイルスワクチンの投与が承認されている。筑波大学医学医療系の堀大介氏らは、エムポックスの予防を目的としたワクチンの接種意向について、性的指向も踏まえた国内初の調査を実施。結果をVaccine2023年5月24日オンライン版)に報告した。

約2万5,000例のアンケート結果を解析

 世界保健機関(WHO)は先月(2023年5月)、エムポックスに対する緊急事態宣言の終了を発表したが、国内では引き続き新規感染者が報告されている(関連記事「サル痘、国内新規感染続く WHOは「緊急事態」終了―専門家「今後も警戒を」〔時事メディカル〕」)。

 今回の調査では、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題による社会・健康格差評価研究(The Japan COVID-19 and Society Internet Survey;JACSIS)」の大規模アンケートで2022年9〜10月に収集した2万4,943人(男性1万2,168人、女性1万2,775人)の結果を解析。エムポックス予防として天然痘ウイルスワクチンの投与が認められている旨を説明した上で、「接種の機会があればワクチンを受けたいと思うか」という質問に対し、「接種したい」「様子を見てから接種したい」「接種したくない」の三択で回答を得た。

 なお、国外の検討では性や性的指向によりワクチン接種意向に差があることが報告されていることから、解析は出生時の性および性的に引かれる性で分けて行った。ただし、実際に性交渉を行う相手の性については問わなかった。

性的に男性に引かれる男性のワクチン接種意向は約3割

 出生時の性ごとに見ると、ワクチンを「接種したい」と回答したのは男性23.1%、女性13.4%で、接種意向は比較的低かった。性的指向により分類した結果、異性に対し性的に引かれると回答した群と比べ、同性に対し性的に引かれると回答した群ではワクチンの受容率が男女ともに高く、性的に男性に引かれる男性では29.2%だった()。この傾向は年齢などを調整した多変量解析においても同様だった。

表. ワクチンを「接種したい」と回答した者の割合

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(筑波大学プレスリリースを基に編集部作成)

 堀氏らは「今回、エムポックス予防における性的意向も踏まえたワクチン接種意向を国内で初めて明らかにした。ワクチン接種意向の把握は、人々がその感染症に感じているリスクの低度の予測や、ワクチンの普及が必要になった際の啓発活動への活用など、感染拡大を抑える上での重要な情報となる」と結論。さらに「COVID-19パンデミックで見られたように、なじみのないワクチンには科学的根拠に乏しい主張や誤情報もつきまとうため、ワクチンの有効性に関する透明性のある情報発信が不可欠である。また、エムポックス予防においては、ワクチン接種希望者には性的マイノリティーが多いと推測されることから、接種に関わる医療従事者は性的マイノリティーに特有の問題についての教育を受け、差別が助長されないよう配慮する必要がある」と付言している。

(編集部)