スペイン・Hospital Universitario Puerta de Hierro MajadahondaのPablo Garcia-Pavia氏らは、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)患者40例を対象に新規抗ATTR抗体NI006の安全性を検討するファースト・イン・ヒューマンの第Ⅰ相国際多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を実施。検討の結果、薬剤に関連する重篤な有害事象は認められず、心臓でのアミロイド沈着の減少が確認されたとN Eng J Med(2023年5月20日オンライン版)にて発表した。

欧州4カ国のATTR-CMかつ慢性心不全の患者40例を検討

 ATTR-CMは折り畳み異常を来したアミロイド前駆蛋白質であるトランスサイレチンが心臓に沈着することで引き起こされる進行性の致死的疾患だ。NI006は貪食性免疫細胞によるATTRの除去を目的として開発されたヒト型遺伝子組み換え抗ATTR抗体であり、ATTR-CMの新たな治療薬候補として期待されている。Garcia-Pavia氏らは今回、NI006の安全性を評価する目的で第Ⅰ相RCTと非盲検延長試験を実施した。

 対象は2020年2月〜4月に欧州4カ国(フランス、ドイツ、スペイン、オランダ)のアミロイドーシス専門センター6カ所で登録され、野生型または変異型ATTR-CMかつ慢性心不全と診断された患者40例〔年齢中央値72歳(範囲28~87歳)、男性39例、野生型33例〕。選択基準は、①左室壁の厚さが14mm以上、②左室駆出率が40%以上、③ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、④推算糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m2以上、④N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)が600〜6,000pg/mLの範囲内―とした。

 40例をNI006投与群(27例)とプラセボ群(13例)に2:1でランダムに割り付け、用量漸増パートとして4週間ごとに4カ月間静脈内投与した。NI006投与群は27例を6つのコホートに順次登録し、体重1kg当たり0.3~60mgの範囲でNI006を投与。4回投与後は患者を8カ月間の非盲検延長試験に登録し、投与量を漸増しながら8回投与した。併用するATTR特異的薬剤は、タファミジスのみ許可した。

 NI006の安全性および薬物動態は、4カ月後および12カ月後の心画像検査(骨シンチグラフィまたはMRI)と心不全バイオマーカー(NT-proBNPおよびトロポニンT)で評価した。

薬剤関連の重篤な有害事象はなし

 治療期間の中央値は7カ月〔四分位範囲(IQR)4〜16カ月〕で、36例がタファミジスを投与していた。用量漸増パートの4回投与を終えた患者は34例で、非盲検延長投与試験には34例を登録した。

 解析の結果、NI006の投与に関連する重篤な有害事象は認められなかった。一方、用量漸増パートでは37例に少なくとも1つの有害事象が認められ、最も多く観察されたものは心不全不整脈だった。非盲検延長投与試験中には死亡が2件発生し、いずれもアミロイドーシスの進行に起因するものだった。NI006の薬物動態プロファイルはIgG抗体と一致し、抗薬物抗体は検出されなかった。単回静脈内投与後、血清NI006濃度は二相性で減少し、半減期は15.5~19.2日であった。

 骨シンチグラフィで評価した心臓におけるトレーサーの取り込みと、MRIで評価した心臓の細胞外容積分画は、NI006投与群では4カ月後、12カ月後ともにベースライン時から減少していた。一方、プラセボ群では4カ月後にいずれもベースライン時と比べ明らかに増加した。

 また、NI006投与群ではNT-proBNPとトロポニンTの中央値もベースラインから低下しており、特にNI006を高用量(1kg当たり10mg以上)で投与した患者で変化が大きかった。

 以上を踏まえ、Garcia-Pavia氏らは「今回の検討は症例数が少なく、NI006の臨床的有用性を示す統計学的または推論的な検出力が不足していた」と断りつつ、「ATTR-CM患者におけるNI006の安全性が示された。追加臨床試験が期待される」と結論している。

(今手麻衣)