米・Penn State College of MedicineのYue Zhang氏らは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)使用と入院後の急性腎障害(AKI)リスクとの関連を検討した多施設共同前向きマッチドコホート研究ASSESS-AKI(Assessment, Serial Evaluation, and Subsequent Sequelae in AKI)のデータを解析。その結果、「初回入院後のPPI使用は、入院時のAKIの有無にかかわらず、AKI発症/再発や腎疾患進行の有意な危険因子ではなかった」とBMC Nephrol(2023; 24: 150)に報告した。

PPIとAKIの報告は大半が後ろ向き研究

 過去の疫学研究でPPI使用とAKIとの関連が報告されているが、いずれも後ろ向きコホート解析である。また、これまでの研究はAKIの発症率や死亡率、腎疾患進行に焦点を当ててはいるが、AKIの再発リスクを検討したものはない。

 ASSESS-AKIは、2009年12月~15年2月に北米の4施設で実施された。初回入院時のAKIエピソードの有無にかかわらず1,538例〔PPI使用群(68例)、PPI非使用群(1,470例)〕を登録し、3カ月後と12カ月後に診察を実施。その後は1年ごとのフォローアップ診察を2018年11月まで行った。診察時に推算糸球体濾過量(eGFR)と血清クレアチニン(SCr)値を測定し、電話によるフォローアップも行った。参加者が入院している場合は、カルテを入手しSCrを確認した。

 AKIの発症/再発は、SCr値が入院前の測定値から50%以上の上昇、および/または0.3mg/dL以上上昇した場合と定義。腎疾患の進行は、末期腎不全(維持透析開始/腎移植)またはeGFRの半減とした。

PPI使用群と非使用群を厳格にマッチング

 まず、完全一致マッチング(exact matching)で施設や入院時のAKIの有無をマッチングさせ、次に、年齢、性、民族、ベースラインのSCr、糖尿病その他の疾患など13の変数を用いた傾向スコア解析を実施。

 最後に、最近傍マッチング(nearest-neighbor matching)を用い、非復元抽出法(without replacement sampling method)による1:4のマッチングを行った結果、PPI使用群68例(入院時AKIあり32例、入院時AKIなし36例)とPPI非使用群272例(同128例、144例)を解析対象とした。

 マッチングの妥当性は標準化差(SMD)で評価した(SMDが0.1より小さい場合は両群のバランスが取れている)。

AKIの発症/再発いずれもPPIの影響なし

 平均年齢はPPI使用群68.0歳、非使用群68.4歳(SMD 0.034)で、その他の患者背景(女性割合、入院時AKIあり、糖尿病/心血管疾患/高血圧歴、SCr、ベースラインの使用薬剤)についてもSMDは0.1未満だった。

 解析の結果、PPI使用群と入院後AKIリスクとの間に有意な関連は見られなかった〔率比(RR)0.91、95%CI 0.38~1.45〕。

 入院時AKIの有無で層別化しても、PPI使用とAKI再発(RR 0.85、95%CI 0.11~1.56)やAKI発症(同1.01、0.27~1.76)に有意な関係は認められなかった。

 PPI使用と腎疾患の進行リスクについても有意な関連は認められず(ハザード比 1.49、95%CI 0.51~4.36)、入院時AKIあり群(同2.41、0.68~8.6)、入院時AKIなし群(同1.20、0.24~5.96)で分けてもPPI使用によるリスクの有意な上昇はなかった。

適切な腎機能モニタリングがPPIの影響を軽減した可能性

 以上の結果を踏まえ、Zhang氏らは「既報の多くでは、腎臓へのPPIの有害な影響が指摘されている(Pharmacotherapy 2019; 39: 443-453Am J Med Sci 2021; 362: 453-461)。住民ベースの後ろ向き研究の参加者とは違い、今回の研究の参加者は専門医による診察や管理を受けていた。PPIの有害事象を減らす上で腎機能のモニタリングが重要である(Am J Kidney Dis 2020;75: 497-507)ことから、今回の知見は医療提供者の指示に基づく適切なPPI使用が、有害腎イベントの軽減に有効である可能性を示唆している」と結論。

 その上で、同氏らは「68例というPPI使用群のサンプル数の少なさは研究の限界であり、CIの幅が比較的大きかったのはこのためであろう」と説明。さらに、AKI発症を追跡期間中の入院記録からのみで判定したことから「外来のみで管理した症例が漏れ、AKI発症率を過小評価している可能性がある」と付言している。

木本 治