経皮電気経穴刺激(TEAS)は、鍼治療と経皮的電気神経刺激(TENS)の利点を組み合わせた新たな非侵襲的治療法で、精神障害の治療における有効性が報告されている。中国・Yunnan University of Chinese MedicineのQifu Li氏らは、初発統合失調症患者60例を対象に、アリピプラゾール治療とTEASの併用効果を予備的シャム対照ランダム化比較試験(RCT)で検討。その結果、8週間の治療後に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計スコアがTEAS群で有意に改善したとPsychiatry Res2023年5月22日オンライン版)に発表した。

統合失調症鍼治療のつぼを非侵襲的に刺激

 TEASは新たな非侵襲的経穴(つぼ)刺激療法で、皮膚表面に貼り付けた電極を介して低周波パルス電流によりつぼを刺激する。大脳皮質全体に対する経頭蓋磁気刺激(TMS)とは影響が異なり、より特異的な治療効果が見られる(関連記事「統合失調症にrTMSなどの脳刺激法が有効」)。統合失調症治療におけるTEASの使用、特に抗精神病薬との併用に関するRCTの報告はない。

 そこでLi氏らは、統合失調症患者に対する抗精神病薬とTEASの併用効果について、昆明精神病院で2021年5~8月に単一施設によるシャム対照RCTを実施した。対象は、罹病期間が6カ月以内で抗精神病薬未使用の18~60歳の初発統合失調症患者60例(平均年齢37.9歳、男性51.7%)。アリピプラゾールにTEASを併用する群と、同薬にシャムTEASを併用する対照群に1:1で(各30例)ランダムに割り付けて8週間治療した。

 アリピプラゾールは開始用量5mg/日、1週までに10mg/日、2週までに20mg/日に増量し8週まで維持用量20mg/日を経口投与した。TEAS治療は、経皮電気刺激装置(SDZ-Ⅱ、Medical Appliance Factory, Suzhou, China)を使用。TEAS群では、統合失調症の鍼治療で頻用される両側の太衝(LR 3)と足三里(ST36)、百会(GV 20)、関元(CV4)のつぼに電極パッドを貼付し、TEAS治療を1回30分行った(刺激周波数50Hz、パルス幅50μs)。対照群には、同様に操作し30秒間最低の感覚閾値に調整された電気刺激を行った。

 主要評価項目は、治療開始から8週後のPANSSスコア*1の変化量とした。副次評価項目は2、4週後のPANSSスコアの変化量、2、4、8週後の簡易精神症状評価尺度(BPRS)*2スコアの変化量、血清インターロイキン(IL)-2値およびIL-6値の変化量とした。

PANSSスコア改善に有意差

 ベースライン時におけるTEAS群と対照群のPANSSスコア(86.6と87.4)、BPRSスコア(90.5と91.2)、IL-2値およびIL-6値などは両群間に有意差がなかった。TEAS群24例と対照群25例、合計49例が治療を完遂した。

 検討では、線形混合効果回帰分析でPANSSスコアの変化を分析。8週間の治療後のPANSSスコアの平均変化量は、TEAS群で-28.7(95%CI -59.60~2.13)、対照群で-19.9(同-38.75~-1.05)と両群間に8.77の有意差があった(同-2.07~-15.47、P=0.01)。8週後にPANSSスコアが中等度の改善(50%以上)を示した患者はTEAS群では22例(73%)に対し、対照群では5例(17%)。さらに著明な改善(75%以上)を示した患者はTEAS群の6例(20%)のみだった。

IL-2値とIL-6値も大きく低下

 治療2、4週時点のTEAS群のPANSSスコアは低下し群間差はそれぞれ-0.23(95%CI -2.70~2.34)と1.47(同-2.78~5.72)。IL-2値は、4、8週時点で対照群に比べてTEAS群では有意に低下(各P=0.002、P<0.001)。IL-6値は8週時点で対照群に比べて有意に低下した(P<0.001)。

 BPRSスコアは、治療2、4、8週のいずれの時点でも両群の変化量に有意差はなかった。8週後のBPRSスコアは、ベースライン時からTEAS群で-44.67(95%CI -95.37~ 6.04)、対照群で-40.03(同-91.16~11.09)それぞれ低下した。

より広範な精神症状の改善に期待

 以上の結果から、Li氏らは「初発統合失調症患者では8週間のアリピプラゾールとTEASの併用療法が有効であるという予備的なエビデンスが示された。さらにIL-2値とIL-6値を低下させる可能性があり、研究がさらに必要である」と結論した。

 また同氏らは「TEAS群と対照群におけるBPRSスコアの変化量には有意差がなかったことから、同スコアの改善はアリピプラゾールによる可能性がある」と指摘。「アリピプラゾールは、初発統合失調症患者の症状およびBPRSスコアを短期的に改善させるのに優れている。しかし、PANSSスコアの改善には時間がかかるとの報告がある。アリピプラゾールとTEASを併用すれば、より広範な精神症状の改善につながる可能性が考えられる」と考察している。

※1PANSS:スコア範囲30~210、点数が高いほど統合失調症の症状が重症

※2 BPRS:スコア範囲18~126、点数が高いほど統合失調症の症状が重症

(坂田真子)