透析による皮膚瘙痒症は末期腎不全患者によく見られる症状だが、有効な治療法は確立されていない。エジプト・Alexandria UniversityのMohamed M. Elsayedらは、透析による皮膚瘙痒症に対する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)セルトラリンの有効性を二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)で検討。プラセボと比べセルトラリン8週間の治療により皮膚瘙痒症が改善し、重度および極めて重度の皮膚瘙痒症の割合が減少したことから、透析瘙痒症に対する有効性が示唆されたと、BMC Nephrol(2023; 24: 155)に報告した。
VASスコアと5-D痒みスケールが有意に改善
対象は、長期に定期的な血液透析(1回4時間、週3回、30日以上)を受けており、軽度~極めて重度の皮膚瘙痒症を有する18~80歳の末期腎不全患者60例。セルトラリン50mg(30例、平均年齢43.67歳、女性66.7%)またはプラセボ(30例、同50.27歳、56.7%)を1日2回8週間経口投与する群にランダムに割り付けた。
痒みVisual Analogue Scale〔VAS、0(瘙痒なし)、3未満(軽度)、3以上7未満(中等度)、7以上9未満(重度)、9以上(極めて重度)の5段階〕と5-D痒みスケール(5〜25点、高スコアほど瘙痒が重度)で治療前後の皮膚瘙痒症の変化を評価した。
平均VASスコア±標準偏差(以下同)は、セルトラリン群がベースラインで5.27±2.75cm、8週後で3.45±2.03cm(変化量-1.82cm、P<0.001)、プラセボ群がそれぞれ4.57±1.94cm、4.36±2.34cm(同-0.21cm、P=0.469)とセルトラリン群で変化量が有意に大きく、有意な改善効果が示された(P=0.002)。
同様に5-D痒みスコアは、セルトラリン群がベースラインで17.13±6.99点、8週後で12.45±3.78点(変化量-4.68点、P<0.001)、プラセボ群がそれぞれ14.93±4.31点、15.50±4.81点(同0.57点、P=0.584)とセルトラリン群で変化量が有意に大きく、有意な改善効果が示された(P<0.001)。
有害事象の出現率に有意差なし
瘙痒症の重症度が重度または極めて重度の患者の割合は、セルトラリン群ではVASスコアでベースラインの33.3%から8週後には6.9%に(P=0.004)、5-D痒みスコアでそれぞれ36.7%から17.2%へと(P=0.002)、いずれも有意に低下した。 一方、プラセボ群ではVASスコアで16.7%から17.9%へ上昇し(P=0.739)、5-D痒みスコアで30%から28.6%へと低下したが(P=0.763)、いずれも有意差はなかった。
頻度の高い有害事象は、吐き気(セルトラリン群16.7%、プラセボ群13.3%)、消化不良(同16.7%、23.3%)、下痢(同13.3%、3.3%)、不眠(同10.0%、6.7%)、口腔乾燥(同10%、6.7%)、頭痛(同10.0%、0.0%)だったが、いずれも出現率に両群で有意差はなかった。
Elsayed氏らは「8週間のセルトラリン投与で、痒みVASスコア、5-D痒みスコアとも良好に改善し、透析による皮膚瘙痒症への有効性が示唆された」と結論。「先行研究では、末期腎不全患者の痒みにおいて炎症の関与が指摘されており、セルトラリンは炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)-6や腫瘍壊死因子(TNF)αを抑制することが知られている。これが、セルトラリンがもたらす透析瘙痒症への有益な効果を説明するメカニズムかもしれない。より長期かつ大規模なRCTで今回の知見を検証する必要がある」と付言している。
(菅野 守)