京都大学大学院予防医療学分野の島本大也氏らは、京都市が保有する医療データを用いた後ろ向き観察研究により、未治療非小細胞肺がん(NSCLC)患者の背景や生存率、総医療費を検討。一次治療として薬物療法または放射線療法を行った患者と比べ、手術を行った患者は生存率が良好で医療費が低かったことをThorac Cancer2023; 14: 1574-1580)に報告した。

5年生存率は手術群75%、薬物/放射線療法群25%未満

 肺がんはがん死亡の主な原因であり、NSCLCは肺がん症例の大部分を占める。2010年以降に新たな治療薬が開発され予後が改善傾向にある一方、医療費の増加が懸念されている。手術適応がある早期の段階で診断し治療を開始することで、生存率のさらなる改善および医療費の抑制につながる可能性がある。そこで島本氏らは、NSCLCに対する一次治療別に生存率と医療費を比較し、早期発見の効果と影響を推定する後ろ向き観察研究を実施した。

 対象は2013年4月〜19年3月に保険請求を行った原発性NSCLC患者で、京都市が保有する医療データ(国民健康保険および後期高齢者医療制度加入者の医療レセプト、健診結果、介護認定情報、介護レセプトなどを統合したデータベース)により2,609例を登録した。

 NSCLCに対する一次治療の内訳は、手術が1,035例(39.7%、手術群)、薬物療法または放射線療法が1,574例(60.3%、薬物/放射線療法群)だった。背景を見ると、平均年齢および75歳以上の割合は薬物/放射線療法群において高い傾向が認められた。また、要介護度も高い傾向にあり、全身状態が悪く手術が受けられない集団が薬物/放射線療法群に多い可能性が示唆された。

 両群の生存率はの通りで、5年生存率は手術群の75%に対し、薬物/放射線療法群では25%を下回った。

図. 一次治療別に見た生存率

46440_fig01.jpg

Thorac Cancer 2023; 14: 1574-1580)

4年後の総医療費に2倍の差

 治療後6カ月時点の総医療費中央値(四分位範囲)は、手術群の240万9千円(206万4,000~322万4000円)に対して薬物/放射線療法群では295万1,000円(160万0000〜470万6,000円)と約50万の差が認められた。

 その後、生存期間の延長に伴い両群とも総医療費は増加したが、増加幅は薬物/放射線療法群で大きく、4年後の総医療費中央値(四分位範囲)は手術群の525万7,000円(380万8,000~824万3,000円))に対して薬物/放射線療法群では1,020万2000円(484万5,000~2,045万円)と約2倍の差がついた。

 島本氏らは「NSCLCに対する薬物療法が大きく進展した2010年以降においても、早期診断による手術療法が予後および医療費の点で有用であることが示された。今回の研究は自治体が管理しているデータベースの解析であり、同様の解析はあらゆる自治体において実施できる。自治体と専門家が協力して施策を評価する取り組みが広がることで、自治体が行う施策の客観的評価および改善につながる可能性がある」と結論。今後は早期診断の手段の1つである肺がん検診の実態や効果の検証を予定しているという。

(編集部)