難治性心疾患である中性脂肪蓄積心筋血管症(Triglyceride deposit cardiomyovasculopathy;TGCV)は、難病指定と治療法開発の加速が求められている。そうした中、日本医療研究開発機構難治性疾患実用化研究事業・厚生労働省難治性疾患政策研究事業TGCV研究班(代表研究者:大阪大学中性脂肪学共同研究講座特任教授・平野賢一氏)は、TGCVレジストリを基に予後を分析。TGCVの3年生存率、5年生存率はそれぞれ80.1%、71.8%と、心疾患において代表的な指定難病の拡張型心筋症と同等であることをJACC Adv2023年5月24日オンライン版)に報告した(関連記事「中性脂肪蓄積心筋血管症、難病指定に決意」、「心臓の肥満症TGCV患者を救う・1」)。

トリカプリン療法未実施の症例を解析 

 TGCVは2008年、平野氏らが心臓移植待機症例から見いだした難治性心疾患で、血清中性脂肪(TG)値や肥満度とは無関係に冠動脈や心臓にTGが蓄積するため診断が難しく、剖検により多くのTGCV患者が臨床診断を受けずに死亡していることが明らかになっている。唯一判明している遺伝的要因は、細胞内TG分解酵素であるAdipose triglyceride lipase(ATGL)遺伝子のホモ型変異だが、大多数の患者ではその変異は認められず病因は依然として不明だ。TGCVについては、2009年から厚労省難治性疾患関連事業として疾患概念の確立および診断基準の策定、治療法の開発が進められてきた。

 TGCV研究班は今回、TGCVレジストリを基に予後(心血管イベントおよび死亡)を検討した。対象はTGCVと診断された症例で、治療薬としての臨床試験が進行中であるトリカプリンによる食事療法を受けた患者は解析から除外し、心血管イベントの発生および死亡について解析した。

診断から5年以内に半数が心血管イベントを発症、3割が死亡

 解析対象は183例(男性139例、女性44例)で、診断時の平均年齢は64.8歳、冠動脈疾患、心不全、心室性不整脈の有病率はそれぞれ74.9%、71.0%、26.2%だった。

 診断から5年後に39例が死亡、死因は心血管疾患27例、非心血管疾患4例、不明8例だった。3年および5年生存率はそれぞれ80.1%、71.8%で、3年および5年無イベント生存率は60.9%、54.0%だった。非致死性心血管イベントは血行再建術21例、脳卒中6例、心不全による入院32例、不整脈による入院/デバイスの埋め込み/適切な手術5例だった。

 以上の結果について、平野氏らは「TGCV患者の予後について初めて報告した。患者はおおむね60歳代半ばでTGCVと診断され、5年以内に半数が心血管イベントを発症、約3割が死亡の転帰をたどっていた。現在進行中のTGCVに対する初の希少疾患用医薬品CNT-01(高純度トリカプリン)の臨床試験に期待を寄せている」と述べた。また、「TGCVの予後は、心疾患における代表的な指定難病である拡張型心筋症と同等であり、早期の難病指定、治療法開発の加速が求められる。心臓専門医やその他の医療専門職、患者などを含め、TGCVという疾患に関する啓発や認知の向上や、医学研究・臨床試験における患者・市民参画の取り組みの促進が必要だ」としている。

編集部