自己免疫疾患の患者数は年々増加していることが報告されており、背景として診断精度の向上や医療制度の整備、環境の変化など、さまざまな要因が考えられる。ベルギー・KU Leuven Department of Public Health and Primary CareのNathalie Conrad氏らは、英国の大規模データを用いて頻度の高い自己免疫疾患19種の発生率、有病率や疾患ごとの傾向、併発率などを検討。欧州リウマチ学会(EULAR 2023、5月31日~6月3日)で「19種の自己免疫疾患全体の有病率は約10%で、患者数は過去20年間に4%増加していた」と発表。詳細はLancet (2023; 401: 1878-1890)に報告されている。
20年間、2,200万例のデータを分析
一部の自己免疫疾患については、過去数十年にわたって増加が報告されているが、その要因や、長期的な経過、自己免疫疾患全体の発生率に関する報告は少なかった。また、自己免疫疾患は併発する傾向が示唆されているものの、疾患間の共通性には不明な部分が多く、広範囲に及ぶ規模な検討は行われていなかった。
そこでConrad氏らは、自己免疫疾患の発生率と有病率、併発率を推定し、長期にわたって経時的な傾向を調査した。英国の大規模医療データベースCPRDを用いて、一次~二次医療機関の電子記録から抽出した2000~19年の20年間にわたる2,200万例の個人データを分析、関節リウマチや全身性硬化症、強直性脊椎炎など頻度の高い自己免疫疾患19種のうち、1つ以上の診断を受けた患者97万8,872例を特定した。平均年齢は54歳で、64%が女性だった。
悪性貧血や関節リウマチは社会経済的格差が顕著
まず、20年間における19疾患全体の有病率を見たところ、人口の10.2%(女性13.1%、男性7.4%)で、「これは2型糖尿病の有病率とほぼ同じだ」とConrad氏は述べた。疾患の内訳で多かったのは橋本病と乾癬で、全体の約半数を占めており、10万人・年当たりの発生数はそれぞれ195.8例と154.5例だった。
全体の発生率は観察期間中に緩やかに上昇しており、19疾患全体で患者数は4%増加していた。同氏は「期間中の疾患の認知度上昇や診断・検査受診者の増加に鑑みると比較的少ない数字だ」と指摘。一方、「セリアック病やシェーグレン症候群、バセドウ病の10万人・年当たりの発生数はこの20年で約2倍に増加している」と述べ、疾患ごとに状況が異なる点に注意を促した。
次に、遺伝以外の要因を検証するため、疾患ごとに階層別に見た発生率比(IRR)を比較した。疾患全体で社会経済的格差は大きくなかったが、悪性貧血〔第1五分位群(最貧地域)vs. 第5五分位群(最裕福地域)のIRR 1.72、95%CI 1.64~1.81〕や関節リウマチ(同1.52、1.45~1.59)、バセドウ病(同1.36、1.30~1.43)などの重篤な疾患は、裕福な地域に比べ貧しい地域においてリスクが高く、顕著な社会経済的格差が示された(図1)。
図1. 社会経済的五分位階層別に見た自己免疫疾患の発生率比
SLEとシェーグレン症候群は併発しやすい
Conrad氏らは、個人における自己免疫疾患の併発パターンについても検討を行った。年齢と性を調整した負の二項回帰モデルを使用して、自己免疫疾患を有する指標集団における併発自己免疫疾患について、一般集団と比較した。図2の濃い色は強い相関関係を示しており、例えばリウマチ性多発筋痛症は血管炎と強い相関が見られたが、それ以外の疾患との関連は見られていない。関連性が強かったのは結合組織疾患で、中でも全身性エリテマトーデス(SLE)とシェーグレン症候群が最も強い相関関係を示した。
図2. 個人における自己免疫疾患の併発
(図1、2ともEULAR 2023発表データを基に編集部作成)
同氏は「自己免疫疾患患者における併発の頻度は偶然または診断件数の増加だけで予想されるよりも大きいため、遺伝的または環境的要因の関与が示されている」と述べ、異なる自己免疫疾患間の相互作用には共通の素因メカニズムが示唆されるとの考えを示した。
人口の10%が持つ負担の大きさが浮き彫りに
以上から、Conrad氏は「英国において、少なくとも新型コロナウイルス感染症流行前に自己免疫疾患全体の流行は示唆されなかった。他方、幾つかの自己免疫疾患では地域的な格差が観察され、これは遺伝的差異のみに起因する可能性は低く、環境要因の関与が示唆される」と結論した。
今回の結果を振り返って最も重要な結果は、英国において人口の約10%が持つ、ほとんど一生涯にわたって治療が必要なこれらの疾患の負担の大きさだとし、「現時点でこうした疾患の経過は不明なことが多く、予防策もない。根本的なメカニズムを理解し、予防策を開発するためさらなる研究が必要」とまとめた。
(平吉里奈)