米食品医薬品局(FDA)は7月6日、エーザイと米・バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病(AD)治療薬lecanemab(商品名LEQEMBI)を正式承認した。米国では今年(2023年)1月に迅速承認され、高齢者向け公的医療保険メディケアで臨床試験に参加したAD患者に限り、使用が開始されていた(関連記事「米・lecanemabがアルツハイマー病に対し迅速承認」)。同薬の投与対象は軽度認知障害または早期認知症のAD患者。日本や欧州でも承認申請の段階にあり、米国での承認を機に世界的な承認の広がりが期待される。
アミロイド関連画像異常について注意喚起
Lecanemabはアミロイドベータ(Aβ)の可溶性プロトフィブリルおよび不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体。lecanemabの有効性と安全性を評価した第Ⅲ相試験Clarity ADでは、2週に1回の投与で、主要評価項目である18カ月後の臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)の悪化が、プラセボ群と比べ27%有意に抑制されたことが示された(関連記事「AD新薬のlecanemab、認知機能低下を抑制」。結果の詳細はN Engl J Med(2022年11月29日オンライン版)に掲載された。
lecanemab投与時の頻度の高い副作用は、輸注反応(lecanemab群26.4%、プラセボ群7.4%)、脳微小出血/脳表ヘモジデリン沈着を伴うアミロイド関連画像異常(ARIA-H、同17.3%、9.0%)、浮腫/浸出を伴うARIA(ARIA-E、同12.6%、1.7%)、頭痛(同11.1%、8.1%)、転倒(同10.4%、9.6%)などだった。
輸注反応のほとんどは軽度〜中等度で(グレード1〜2が96%)、多くは初回投与時に発現した(75%)。また、ARIA-Eの大半は軽度〜中等度で(91%)、71%が無症状、81%が4カ月以内に消失した。ARIA-Hのうち症候性ARIA-Hの出現率は、lecanemab群0.7%、プラセボ群0.2%であり、最も一般的な症状はめまいだった。
抗Aβ抗体により生じるとされるARIAは時間の経過とともに消失するとされるが、まれに発作や重度の神経症状を伴い、また生命に関わる脳浮腫を引き起こすことがある。脳内出血を発症することもあり、致命的な転帰をたどることが危惧される。そのため、lecanemabの添付文書ではARIAに対する警告が記載され、潜在的なリスクについて注意喚起がなされている。
ARIA-EおよびARIA-Hの発現はアポリポ蛋白E(apoE)ε4対立遺伝子(apoE4)との関連性が強いことが報告されている。lecanemabの第Ⅲ相試験では、apoE4アレル非保有者より保有者で発現が多く、ヘテロ接合型よりホモ接合型で多かった。そのため、lecanemabの添付文書には、ARIAの発症リスクを事前に把握するため、投与前にapoE4の状態を調べる検査を行う必要があるとされている。
イーライリリーのdonanemabも第Ⅲ相試験で好成績、早期承認に期待
Lecanemabの使用に際しては、脳画像検査などで脳内のAβの蓄積を確認する必要がある。また、副作用として出現することもあるARIAの大半はlecanemab投与開始後14週間以内に生じることから、投与前1年以内の脳MRIと投与後のMRIによる定期的にモニタリングを行い、同期間は注意深く患者の状態を観察することが推奨されている。
なお、lecanemabと抗凝固薬を併用した患者で直径1cmを超える脳内出血が観察されているため、「既にlecanemabによる治療を受けている患者に抗凝固薬または血栓溶解薬(組織プラスミノーゲンアクチベータなど)の投与を検討する場合は注意が必要」としている。
lecanemabの米国での販売価格は年2万6,500ドル(約350万円)。エーザイのCEOである内藤晴夫氏はlecanemabの承認に伴い声明を発表。「Lecanemabが、ADの進行を抑制し日常生活機能を維持することが示された治療薬として世界で初めてFDAからフル承認され、約40年にわたるAD研究の成果が認められた。今後は、AD患者に対し早期段階で診断と治療を提供できるよう努めるとともに、添付文書に基づく安全で適正な使用を推進し 、早期AD患者と家族のベネフィットの最大化を図っていきたい」としている。
ADに対する抗Aβ抗体をめぐっては、米・イーライリリーがdonanemabの第Ⅲ相試験の結果を今年5月に発表。認知機能の低下を遅らせるとの結果を報告(関連記事「donanemabでAD患者の認知機能低下が遅延、主要評価を達成」)し、先月(6月)末までにFDA に承認申請を行うとしており、早期承認が期待されている。
(小沼紀子)