埼玉医科大学眼科講師の石川聖氏らは、眼科手術前の眼表面に対する温罨法(おんあんぽう:ホットアイマスクによる眼の保温)の効果を検討した前向きランダム化試験(RCT)の結果をBMJ Open Ophth(2023; 8: e001307)に報告。「手術前に20分間の温罨法を1回行うだけで術中の可視性(intraoperative visibility)が改善した」と結論している。
蒸発亢進型ドライアイに対する治療法の報告は少ない
手術中の光学的透明度は眼手術における重要な因子だが、可視性は角膜の乾燥に起因するかすみ目により阻害されることが少なくない。周術期におけるドライアイを惹起する要因にはさまざまなものがあるが、その発生率は不明で予防治療も確立されていない。
石川氏らは「老人性白内障の患者にジクアホソルナトリウム点眼液を投与することで術中の可視性が改善したとの報告はあるが(J Cataract Refract Surg 2014; 40: 1682-8)、同点眼液は涙液減少型ドライアイに適しているものの、蒸発亢進型ドライアイに対する治療法の報告はほとんどない」と今回の試験の背景を説明している。
自然発熱アイマスクを使用
同試験では、2020年1月~21年9月に埼玉医科大学病院で眼科手術を受けた200例(男性88例、女性112例)を自然発熱アイマスク(spontaneously heating eye mask;HM)群または普通のアイマスク(対照)群にランダムに割り付けた。瞼の発赤や腫脹、アトピー性皮膚炎、ドライアイと診断され点眼液を処方されている患者は除外した。
手術の2時間前にケラトグラフ5M(角膜形状測定装置)を用いて、非侵襲的涙液層破壊時間(NIBUT)、涙液メニスカス高(TMH)、マイボーム腺の脱落面積(マイボスコア)、結膜の充血スコアを評価。その後、患者は割り付けられた群のマスクを20分間着用し、これらの評価項目を再測定した。
さらに、アイマスク着用前後に結膜囊から採取したスワブ検体を培養。手術の際は、角膜かすみ時間(corneal blurring time;CBT、角膜表面が湿潤し始めてから、乾燥しかすむまでの時間)を測定した。
角膜表面の湿潤時間を有意に延長
解析対象となった最終コホートはHM群96例、対照群99例。手術の内訳は、白内障手術(176眼)、線維柱帯切除術(5眼)、経毛様体扁平部硝子体切除術(19眼)、黄斑上膜手術(16眼)、黄斑円孔手術(3眼)であった。
平均年齢(HM群69.0±13.3歳 vs. 対照群69.5±16.2歳、P=0.09)、男女比(39/57 vs. 44/55)、術前の各評価項目の値に差はなかった。
試験の結果、HM群では術前と比べた術後のNIBUT(6.72±5.05 → 9.46±5.75、P<0.001)、マイボスコア(0.71±0.93 → 0.63±0.96、P=0.03)、TMH(0.22±0.08 → 0.24±0.08、P<0.001)がいずれも有意な改善を認めた。対照群ではいずれも有意な改善は見られなかった。
一方、充血スコアに関しては、HM群で術前に比べ術後で有意に悪化した(1.23±0.59→1.41±0.60、P<0.01)。
CBTは対照群(25.7±14.9秒)に比べHM群(33.5±13.4秒)で有意に長かった(P<0.001)。
効果の持続時間は今後の検討課題
以上の結果を踏まえ、石川氏らは「眼手術前のホットアイマスクを用いた20分間の温罨法により、NIBUT、TMH、マイボスコアは有意に改善した。CBTも延長されたことから、眼手術中の可視性維持に有効であることが示された」と結論。
試験の限界としては、①温罨法後に改善した可視性が維持される時間は検討していない、②自律神経に対する影響を評価しなかった、③一般用医薬品の点眼液を使用した患者の数や影響は不明である、④マスクの形状は同じであったが、発熱マスクを装着していると感じた患者がいた可能性がある、⑤眼表面に対する短期的な効果しか評価しておらず、長期的な影響は分からない―などを挙げ、眼手術後のドライアイ症状の発現および変化に関するさらなる研究が必要だと結んでいる。
(木本 治)