岸田政権が6月にまとめた少子化対策「こども未来戦略方針」の一つ、「こども誰でも通園制度」のモデル事業が全国31市区町で順次始まっている。親が在宅でも子どもを預けることができ、利用者からは「気分転換になる」と歓迎する声が上がる。一方、都市部では受け皿を確保できない保育所も多く、望む人が誰でも預けられる環境とは程遠い現実も浮かび上がる。
 ◇保護者の孤立防げ
 戦略方針の決定に先立ち、福井県若狭町では今春から町内の「とばっ子保育園」でモデル事業を導入した。保育所や幼稚園に通っていない未就園児が主な対象で、週3回まで利用可能としているが、保護者の希望に応じて柔軟に対応。現在は4人の子どもを受け入れている。
 川崎市から里帰り出産のため帰省中の垣内紘子さん(40)は長女(3)、乳児とともに町内の実家で暮らす。預ける前は元気いっぱいな長女の世話で疲弊し、怒りやすくなっていた。「保育園に預けることで、安心して休んだり、やりたいことができたりしてありがたい」と語る。
 里帰り出産に加え、上の子の学校行事や通院、リフレッシュなど同園に預ける理由はさまざま。町の担当者は「保護者が孤立しないよう地域全体で子育てを支援したい」と語る。一方、誰でも通園制度の本格導入を見据え、国には「家庭環境や保護者の精神状態などに応じた受け入れの優先順位の基準を細かく定めてほしい」と求める。
 ◇「10分で100人超」殺到
 東京都文京区は今月上旬、東京23区の中で最も早くモデル事業を始めた。区はモデル事業専用の保育施設を確保し、0~5歳の未就園児を1日6人受け入れている。利用者が預けられるのは平日週1回で保育料は月額5000円。既存の一時預かりと比べ、2割程度の費用に抑えられる。
 区が事前にインターネット上で募集したところ、初日の開始10分で100人以上が応募。現在30人が利用し、149人がキャンセル待ちの状態だ。
 モデル事業では曜日ごとに違う子どもが来るため、6人に対し、保育士4人体制で手厚く対応。園長の村瀬光世さん(52)は「好きなおもちゃは何だったか先週の様子を思い出しながら受け入れている。頭の中は30人の子どものことでいっぱいです」と笑うが、保育士の負担は重い。
 「子どもが生まれてから初めてランチに行け、気持ちが救われました」。次女(1)を預ける女性(41)はこう語る。ただ、空き定員を活用することについては「もともと通っている園児の世話が手薄になってしまうのでは」と不安も見せる。
 受け皿不足は他区も同様だ。品川区の担当者は「都心と地方では状況が違う。未就園児の子育て支援につながることは喜ばしいが、保育所のみにその機能を期待するのは都内では難しい」と訴える。中野区は「待機児童がいなくなってやっと2年。1~2歳児の空きはほとんどなく、ぎりぎりの状況だ」としている。 (C)時事通信社