カナダ・Université de MontréalのLisa Leung氏らは、同国ケベック州モントリオールの住民を対象とした症例対照研究PROVAQ(Prevention of OVArian Cancer in Quebec)の結果をOccup Environ Med(2023年7月10日オンライン版)に報告。「卵巣がんリスクの上昇と関連する職業および、それらの職業に関連する曝露因子の存在が示唆された。しかし、なんらかの結論を引き出すにはさらなる研究が必要だ」と述べている。

卵巣がん498例と対照908例に面談調査を実施

 職場環境と卵巣がんリスクに関する過去の報告は、特定の職業や曝露因子を検討したものがほとんどである。単一の職場コホートから卵巣がんや死亡率の上昇と関連する因子を同定しようと試みた研究が多く、重要な交絡要因に関するデータが欠けていることが多い。

 PROVAQでは、2010~16年にモントリオールの7つの病院から卵巣がん患者652例を特定し、同意が得られた507例(78%)に面談調査を実施。非上皮性卵巣がんや転移がんの9例を除外して最終的に498例を症例群とした。一方、ケベック州の選挙人名簿から症例と5歳刻みの年齢および選挙区をマッチングした1634例を選び出し、面談調査の同意が得られた908例(56%)を対照群とした。

 職場における曝露因子については、Canadian job-exposure matrix(CANJEM)を用いた。CANJEMは1979~2004年にモントリオールで実施された4件の人口ベースの症例対照研究(参加者8,000人以上、職種3万以上)において、専門家が評価した258物質への職場曝露に関するデータベースである(J Occup Environ Med 2018; 60: e324-e328)

会計士、美容師/理容師などが高リスク

 対象の50%以上が20歳未満で最初の仕事に就き、3つ以上の仕事に就いた経験があった。平均就労期間は15年以上で、大半は1つの仕事で10年以上の勤務経験があった。

 多変量ロジスティック回帰モデルを用いた検討の結果、10年以上の勤続と卵巣がんリスク上昇との関連が観察された職業は、会計士〔オッズ比(OR)2.05、95%CI 1.10~3.79〕、美容師/理容師(同3.22、1.25~8.27)、裁縫工/刺繍工(同1.85、0.77~4.45)、販売員・店員・実演販売員(同1.45、0.71~2.96)などであった。

 業界別では小売業(OR 1.59、95%CI 1.05~2.39)と建設業(同2.79、0.52~4.83)でリスク上昇傾向が見られた。

 卵巣がんリスクのORが1.42超となった累積曝露因子としては、化粧品用タルク、アンモニア、過酸化水素、ヘアーダスト、合成繊維、ポリエステル繊維、有機染料・顔料、セルロース、ホルムアルデヒド、プロペラントガス、脂肪族アルコール、エタノール、イソプロパノール、フッ化炭素、アルカン(C5-C17)、単核芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素などが抽出された。

 以上の曝露因子のうち、国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類の対象となっているのは、ホルムアルデヒド(グループ1、ヒトに対して発がん性がある)、過酸化水素、化粧品用タルク、イソプロパノール(グループ3、ヒトに対する発がん性について分類できない)である。

多重比較のため結論は導けない

 今回の結果について、Leung氏らは「多重比較のためほとんどのORはCIの幅が広い。多数の検定を行ったので、統計学的に有意とされたものも偶然の結果である可能性は否定できない」と研究の限界を認める一方、「生涯にわたる職歴を聴取した人口ベースの研究デザインにより、女性労働者の職業と産業のリスク分析を可能にした」点を強みとして指摘。「卵巣がんの原因となる曝露因子の特定には、高度な統計手法を駆使できる大規模な追試が必要だ」と結んでいる。

木本 治